特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

四国地方メンバー懇談会
四国地方に暮らすメンバーたちと考えるエネルギー

ETTでは2020年に迎えた設立30年を機に、神津カンナ代表が各地域を訪問し、メンバーの皆さまとともに地域のエネルギーの歴史や課題などを議論・意見交換する懇談会を実施しています。第7回目となる四国地方メンバー懇談会は、コロナが落ち着いていた2022年1月12日に開催しました。





窪田 恕子氏(愛媛県松山市在住)えひめ消費生活センター友の会愛媛県 顧問
重川早由利氏(愛媛県松山市在住)消費生活アドバイザー/えひめエネルギーの会 代表
濱崎みちゑ氏(愛媛県松山市在住)えひめエネルギーの会 副代表/

                 有限会社文具ハウス・友 代表取締役社長

やのひろみ氏(愛媛県松山市在住)パーソナリティ/ディレクター

四国でエネルギーに関心が高いのは愛媛県だけという問題

神津 窓から松山城が見えますね。まずは自己紹介からお伺いできますでしょうか。

窪田 「えひめ消費生活センター友の会」の世話役として、2004年の発足以来、エネルギー問題や環境問題に取り組んで活動しています。年2回、専門の先生方を招いて講演会をしていただく中で、「ETTで勉強してみないか」と誘われたのがきっかけで、今年で18年になります。最初に参加した時は、皆さんが高い知識を持っていらっしゃったので、「地域の消費者の代表としての私が来る所ではなかった」と感じましたが、勉強しているうちにその考えは変わったのです。省エネ指導員として四国全域の小学校に出前講座を行った時もETTで勉強させていただいたことが役に立ち、本当にありがたいなと思いました。

重川 消費生活アドバイザーの資格を取り、愛媛県消費生活センターなどで消費者相談の仕事を、トータルで20年やってきました。1993年に自主研究グループ「くらしと契約研究会」を立ち上げ、消費者相談にはエネルギーのことも含まれることから見学会や勉強会を開催しました。とても評判が良く、私もその時初めて原子力発電所を見学しました。その後「えひめエネルギーの会」が2004年に設立され、当初から関わり、4年後から副代表となり、ETTにはお声かけしていただいて2014年に入会しました。最初は「ETTの勉強は難しくて私はついていけない」と思いましたが、エネルギーを勉強することはおもしろく、参加させてもらっています。

濱崎 「えひめエネルギーの会」が2004年に発足した半年後位に入り、長く活動してきた中で、ETTが資料を提供してくださることは耳にしていました。2年前、窪田さんに副代表に推薦していただき、重川さんからのご紹介を受け、ETTに入会させていただきました。まだ入ったばかりなので、今はオンラインで一生懸命聞くのが精いっぱいという感じで勉強している最中です。

やの 20年近く前、四国電力の広報の仕事で、四国中の100人位の方たちにエネルギーについて街頭インタビューをしました。愛媛県の方は「私はこう思っている」「こういうことが問題だ」などとお話していただけるのですが、ほかの3県ではエネルギー問題が自分ごとになっていない方がとても多いと感じました。その後ETTに入会し、何度か勉強会にも参加させていただきました。「私みたいな素人が行って大丈夫かな?」と感じながらも、会に所属することで「エネルギーのことを少しずつ自分ごととして考えないといけない」という意識になり、勉強する機会をいただけたと思っています。毎回、会報誌も読んで勉強中です。

窪田 高知にも消費者団体でいろいろ勉強されていた方はいますが、エネルギー問題にはあまり関心がなく、原子力発電所は愛媛県にあるせいか「私たちには関係ない」と言う方が多いのです。香川の方たちも、四国電力の本店は高松市にあるので少しは関心があるかと思いきや、聞くと、勉強して活発に活動しているのは「エネルギーを除いた消費者問題」という所が多いのです。

神津 今日ご参加の皆さんは全員が愛媛県松山市にお住まいですね。原子力発電所がある愛媛県の方はエネルギーに意識が高いと思いますが、高知、香川、徳島の方をどうやって包括していくか、そういった四国の問題点もお話できればと思います。まずは皆さんが地元でどういう活動をなさっているのか、また、そこで接する方たちのエネルギーに対する感覚はどういったものかをお聞かせいただけますか?

窪田 「えひめ消費生活センター友の会」は当初は会員数がとても多かったのですが、高齢化でだんだん少なくなり、新しい方も少しは入って来ているものの、大勢では活動できなくなってきました。でも四国電力伊方発電所(愛媛県西宇和郡伊方町)は地元の松山と同じだと、会の皆さんは原子力問題を身近に感じて一生懸命勉強しています。伊方もやっと再稼働できる状態になったので、「もったいない。なぜ原子力発電を動かさないの?」という質問がよく出ます。また、NUMOの地層処分の問題についても2007年より毎年ワークショップを開催していますので、今は「使用済み燃料はどうするのか? 早く処分場をつくらないと」という話もよく出ますね。

重川 「えひめエネルギーの会」では、皆さんがエネルギー問題を理解しているので活動はしやすいです。ETTが毎年開く講演会に、多い時には50人位誘って参加しました。その方たちがすごくエネルギーに関心があるかというと、「イベントが好き」という方もいるので難しいのですが、「考えることが好き」とリピーターになってご近所の方や仲間を誘って来てくださる方もいて、「講演会を聞くとエネルギーに関して得るものがある」と解釈してくださいます。日常の生活の中で、エネルギー問題で話題になることがあると、よく質問してくださる方もいます。

濱崎 伊方で不祥事があると、地方新聞で毎日のようにニュースになります。同じような文面で何回もくどく掲載されるので「相当ひどいみたい」というイメージが植え付けられ、それを得々と話す人もいます。新聞は嘘ではないかもしれませんが、読み方と表現の仕方で伝わり方が違いますよね。私は四国電力側というわけではありませんが、一般の人より少しは理解しているつもりなので、「そうだよね」と同調するのではなく、静かに聞いた上で「いやー、これ、繰り返し言っているよね?」と少し抑えて言うようには心がけています。

やの 日本原子力文化財団主催の仕事で、ゲストの方を招いてエネルギー事情を松山大学の学生に話す授業のお手伝いをしていますが、コロナの前後で、学生のエネルギーに対する意識の変化を感じました。「当たり前と思っていた生活が当たり前ではない」と気づき、「政治も自分たちが関心を持たないと変わらないのではないか。声を上げたり学んでいったりしないと後で困る」と考える若者たちが少しずつ出てきているようです。去年はアルピニストの野口健さんがゲストで来られて、「エネルギー問題に熱心だと、原子力に賛成か反対かとよく言われる。わからないから見学に行くんだよ」「原子力をやらないとほかの所で補完しないといけない。カーボンニュートラルの問題もあるし、どれを選べば良いかそろそろ考えないといけないよね」ということを若者向けに発信されていました。

重川 四国は東日本大震災で停電になりませんでしたが、老朽化した阿南発電所を動かした時には電力供給に危機感がありました。

神津 私の事務所にお掃除に来てくれる方が、伊方発電所の近くに住んでいたそうで、「発電所ができて道路が拡張される前は、駅から2時間位歩いて帰っていた」「もちろん悪いこともいろいろあるけれども、地元の実情を知らないと都会の人は語ることはできない」と熱く話をしてくれました。その時、都会の人間は湯水のようにエネルギーを使っているけれども、それがどこから来ているか、あるいはそこに暮らしている人がいることを知らずに、勝手に賛成したり批判したりしているんだなぁと今さらながら感じました。こういった地元を訪ねて行くという企画は、やっぱり行ってみないとわからないことがたくさんありますし、地元に行ったことで初めて「実は…」という話ができると感じています。

重川 ETTのホームページで、北海道メンバー懇談会の記事を読んで、暖房費の高さにビックリしました。東京で開かれるワークショップで皆さんと少しはお話できますが、その方の経歴や地域の様子などをあらためて知ることができて、今回の企画はすごくいいなぁと思いました。

神津 ありがとうございます。ところで、四国4県は東京電力の神奈川支店と同じ位の規模と言われますが、その中でも県によってエネルギーに対する関心の温度差があることについて、どうお感じになっていますか?

やの 四国は一つの島ですが、それぞれ県民性が大きく違います。それを同じベクトルにしようとするのは、エネルギー問題以外でも結構大変かもしれません。

濱崎 私は高校を卒業して東京に18年間住んで36歳で松山に帰って来たので、他県の知人がいないのです。以前、営業で四国を回った時に、高知の人はお酒を飲む、徳島の人は倹約家という県民性をなんとなく知ったものの、交流はないのでエネルギーの話も広げようがありません。県境には山があって、生活が全然違います。高知は自然災害が多く、松山はあまりないという差もあります。

重川 地層処分のワークショップを四国全体で開催した時、高知の方に「高知の台風の津波より原子力の方が安全なのでは」と言われ、台風への恐怖感の違いを感じました。愛媛は伊方発電所があるからエネルギーへの意識は高いと思いますが、伊方まで65kmと距離が近い松山と、遠い新居浜とでは温度差があります。

窪田 「えひめ消費生活センター友の会」では1993年から15年間、エネ庁のお手伝いで、地層処分のワークショップを愛媛県内で15回開催しています。重川さんには生活センターの相談員をされていた頃から手伝っていただいて、エネ庁の方に「ほかの3県も手が足りないから助けて」と言われたのでそれぞれ何回も声をかけましたが、「うちではそんな話できない」「参加してくれる人がいない」と断られました。3県は開拓しようしてもなかなか難しい。関心が薄いんですよ。

地域で活動するグループやリーダーを育てていくのもETTの役目

神津 四国の難しさは日本全体にも言えることです。エネルギーに関心のある賛成派・反対派の人は自分で勉強してくれますが、中間の人の関心を掘り起こしていくアイデアは何かないでしょうか?

やの おっしゃる通り、賛成か反対かと考えている方たちは自分から情報を取りに行くでしょうが、無関心な方々への働きかけがETTの大事な存在意義の一つのような気はします。

神津 やたら言うと押し付けになるし、言わないと何もならないし、その兼ね合いがすごく難しいところです。

やの SDGsやカーボンニュートラルという言葉は浸透していますよね。愛媛で「エネルギーが、原子力が」と聞くと蓋をしてしまう方もいるから、間口をもっと広げて働きかけていくのも一つの方法かもしれません。

濱崎 息子が子育ての真っ最中で、小学校で「おやじの会」のPTA活動をしています。全国の会長と横のつながりもあって、今年は愛媛、次の年は札幌というように会合に出かけています。学校にも子どもにも熱心なパワフルな会で、四国電力に掛け合って小学校で講演会もしていただいたようです。主に40代の若い世代ですから、エネルギー問題も勉強したがっていると思うのですね。ETTに講演を依頼できるしくみがあれば、「愛媛でやって良かったそうだから、今度は札幌でもやろうか」と、主婦とはまた違った視点で広がりそうな気がします。

重川 ETTはとてもいい資料やホームページをつくられていて、興味のある私たちには活かされていますが、ほかの皆さんには案外見られていない感じがします。もっと活動や考え方を広げていかないともったいないと思います。

窪田  ETTは今後も活動を維持していってほしい。私たち地方で活動している者は自治体からの援助がないので、ETTのサポートは非常にありがたいと思っています。地域でいろいろな活動をするグループを育てていくのも、ETTの役目ではないでしょうか。ETTでは私たちが普段考えられないようなことを教えてもらえます。自分の目で見て耳で聞いて勉強する見学会も続けていってほしいし、一人でも多く地域のリーダーを育てて、ETTで習ったことを地域の活動に活かしていけるようにこれからも続けていただきたいです。ETTをなくしたらダメです!

神津 コロナ禍では、実際に見て聞くことができないので、机上で情報を得て、わかった気になってしまう。そういった中でETTはどうすればいいか、何かお考えはありますか?

濱崎 オンラインで見聞きするだけなく、やのさんが海岸清掃活動をされているように、勉強したことを一つだけでも行動につなげて役に立てる実践が何かできればと思います。

窪田 地方の団体も高齢化でなかなか人が集まらず、うちの会でも維持するのがやっとです。また、今はどこの家でも共稼ぎで、若いお母さんは昼間働いて土日は家のことをするため、勉強に来る機会がありません。人集めをどうするかと、どのように勉強してもらうか、どうやって関心を持たせるかがこれから一番大事なことだと思います。

やの コロナ禍で良かったこととして、ETTでもそうですが、オンラインの勉強会が増えました。小学校の体育館で毎年開催しているPTA人権講演会も参加率が低かったのですが、YouTubeで1カ月限定公開したら 「家事や仕事の合間に聞けて勉強になった」という意見が多くて、オンラインは子育て世代の保護者にとって勉強するチャンスになると思いました。

神津 私事になりますが、姪が24歳でやや環境派なのです。会うと、10何kmも歩かされたり、コオロギのビールを勧められたりします。ある時、「目に見える物に対しては節約しているけれど、目に見えない空調や照明にも莫大なエネルギーがかかって、それが土台になっていることも意識しないとね」と言ったらじっと考えて、後日、電球を減らしましたとハガキをくれました。今の人たちは自分が興味のあることは見るけれども、それ以外のものは見ないし、空気のようにないのと同じです。そこを見ていくことを何か教えられないかということと、私でも若い世代に話は通じるんだと感じた瞬間でした。リモートで、自分で体験することができなくなっている今は特に、「見えないことを見る目を養う」ことは大変だけど重要だと思います。さて、ETTは発足して30年以上経ちましたが、これから先ETTでやりたいことや、こういうのをやってみたら?と思いついたことがあればどうぞ。

重川 私たちがエネルギーを考えるのは原子力から始まりましたが、今は原子力のことをしゃべれない雰囲気ではないですか? 地層処分のワークショップにしても、反対派の人とは同じテーブルで話し合うことすらできないので、議論がちゃんとできるような場をつくっていただきたい。

濱崎 反対派を説得するのはムリがあるので、賛成派を増やさないと。それには人集めが大変という話に戻るのですが…。 

重川 講演に来てくれる方たちは「早く再稼働して、今あるものは使い続けなきゃね」とはっきり言います。技術の継承や、経済を回すためにも使い続けないといけないことを理解されている方もいますが、普通の会話では「原子力なんて」と言う方が多いですね。

窪田 一つのことを存続させるのが、今は非常に難しい世の中です。どこの会でもやめようか、なくそうかと、一度は存続の危機があります。昼間に集まれる人は限られるので、お勤めしていてもパソコンを開けばいつでも勉強できるという会をつくって広げていってもいいなと、先程、やのさんの話を聞いて思いつきました。

やの 今はデジタルネイティブ*が増えていて、小学生と中学生のうちの子もタブレットで宿題をやっています。あと10年経てば社会に出ると思うと、これからもオンラインの学びの機会が増えるといいと思います。また、原子力一択にするとなかなか一緒のテーブルにつけないことがあるかもしれませんが、2030年、2050年に向けて議論しなければいけない時代が来ているので、地熱も水素もひっくるめて「今後エネルギーをどうしていくのか」というテーマにすれば、いろんな世代の方々にテーブルについていただいて議論できる可能性があるのではないでしょうか。
*学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境で育ってきた世代。

学びの機会を定期的に与えてくれるから考える機会になる

神津 デジタルネイティブには手書きの文字だからこそ伝わることを教えたいし、逆に私たちはITを駆使することについていかなければなりません。ETTは互いの世代がうまく意思の疎通を図れる掛け橋にならないといけないので、ウエブと紙、両方の媒体を交互にできるようなシステムをまだしばらくは続けていかなければならないのではないかと思っているところです。最後に、言い忘れたことがありましたら発言してください。

窪田 ETTは地域の消費者グループを指導する立場でいろいろな活動をしていただきたいというのが、私の願いです。

重川 今はコロナ禍で非常に苦労されていると思うのですが、本当によくやってくださっているので勉強を続けられています。特に神津代表は精力的に活動され、メールも送ってくださって感謝しています。コロナが落ち着いて外に出て行けるようになるまで、これからも工夫しながらよろしくお願いします。

濱崎 変わりゆく環境の中で、自然に対しても知っておきたいことや、生活を変えていかなければならないことがたくさんあります。そういった時に問題点があると、自分たちも解決策を考えますけれども、ETTの方たちのご指導はかけがえのないもので、今後もご助言をいただきたいし、勉強させていただきたいので、必ず会は存続してほしいと思います。

やの 学びの機会がないと考える機会も減って、スースーと忘れてしまい、関心がなくなることもあるので、定期的に学びの機会を与えていただいて本当にありがとうございます。コンスタントにお便りメールもくださるので、読んでほっこりしたり、考えさせられたり、特に人と接触することがタブーとされているコロナ禍だからこそ、学びたいと思っている仲間が全国にいてつながっているなーと実感しながら拝読させていただいております。これからもささやかにつながり合い、オンラインでも、リアルに見学できるようになっても、細く長く継続していただけたら私たちも学び続けられると思います。今後ともよろしくお願いします。


懇談を終えて

四国は4県がとても異なった風土の中に存在している。自然のことは四万十川を取材したときの後記に書いたが、四国という一つの島の中で、太平洋に面している高知県、大阪を見ている徳島県、日本で一番小さい県、香川県、そして原子力発電所を持つ愛媛県。それぞれが当然だがそれぞれのキャラクターを持ち、それを活かしながら自分なりの道を歩んでいる。これは島国でもある日本の縮図であり、そして四国は最もわかりやすい形を作っているところだと思う。
四国のETTのメンバーは全員、愛媛県の方々である。これも面白い。発電所は各県にあるが、やはり原子力発電所を持つ愛媛県はエネルギーに対する意識が高いのだろう。気候の差、面積の差、人口の差、地形の差などが四国4県の県民性に現れ、文化を含めてそれらをきちんと見ることは、日本だけでなく、世界を見渡すときの大きなヒントになる。
エネルギーだけでなく、興味のない分野にどれだけ人をひきつけることができるのか。変えられない自然のありよう、そしてその中で培われた県民性を、よそ者がどれだけ感じ取ることができるのか。帰りの飛行機の中で私はあれこれと考えた。 来年度からの糧になるようなヒントは各地でたくさん得ることができた。もちろんETTは大きな事はできないが、各地にいるメンバーの力を借り、各地の特色を活かし、何かを具現したいと思っている。その「何か」を探す旅はまだもう少し続く!

神津 カンナ

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