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トラウデン直美氏インタビュー
環境問題で大切にしたいのは「一人の100歩より、100人の一歩」

今回のゲストは慶應義塾大学法学部政治学科に在学中で、モデルやタレントとして活躍するトラウデン直美氏(21歳)。ファッション誌にSDGs(持続可能な開発目標)をテーマにした連載を持ち、環境省サスティナビリティ広報大使も務め、環境問題や社会問題について日頃から発信されています。環境やエネルギーの問題を若い世代はどう考えているのか、神津カンナ氏(ETT代表)がお話を伺いました。


白か黒かで分断する世界は不自然、グレーやカラフルなゾーンも

神津 今までETTで対談してきた中でトラウデンさんが一番若いゲストです。読売新聞のインタビュー記事で、コロナ禍や環境問題、SDGsについて、「長く生きてきた世代の知恵と、若い世代の意欲、行動力を合わせれば必ずプラスに働くはず。世代間での分断、対立は、本当にもったいない」とコメントされていたのを読んで、ぜひお話を伺ってみたいと思いました。

トラウデン 私はまだ勉強中の身なので…、今日は緊張して来ました。

神津 順天堂大学の先生に「腸内には悪玉菌が約1割、善玉菌が約2割で、あとの約7割は日和見菌。だからヨーグルトを摂ることには、日和見菌が少しでも悪い方向へ行かないようにケアする意味がある」と伺いました。私はこの話が好きで、ETTも中間の7割の人たちのために必要ではないかと思っているのですが、トラウデンさんはどんな思いで活動されていますか?

トラウデン 私もまさにその通りで、「エネルギーや環境の話なんてどうしても嫌」と言う人に無理強いするのではなく、私と同じように普通に生活を送っている中で少しでも興味がある人に「これってどうなのかな?」と考えてもらえるような活動をしたいですね。情報や思いを共有しながら、少しずつ空気を変えていけたらいいなと思っています。私は“日和見”の最たる者です。

神津 私も“日和見”です。と言うとあまり良いイメージに聞こえませんが、元々は「今日はいいお日和ね」「小春日和」といった天気を意味する言葉なので、「空の様子を見て傘を持って行こうかな」というように、周りの状況を見て判断する“日和見”であることにもっと胸を張っていいと思うのです。ところで、元トランプ大統領が「分断」を深めたと言われますが、日本でもコロナ禍で、マスクを着けている人が着けていない人に憎しみを感じるようになりました。そうした「二分化する世界」をどう見ていますか?

トラウデン すごく不自然ですし、「分断する世界」は白か黒かの2つしか無いのでおもしろくないと思います。

神津 「灰色高官」など、灰色という言葉は良い使い方をされていませんが、もう少し灰色/グレーを認めるような風潮が出てきてもいいですよね。

トラウデン LGBTQ(性的少数者)の方と対談させていただいた時に「性別で分けているけれど、さまざまな人がいるんじゃない? ストレートな女性だけど、ちょっとボーイッシュな格好をして、少しフェミニンな男性が好きな人もいるでしょ? 白か黒かでは分けられないグレーなゾーン、カラフルなゾーンもある」と言われ、確かにそうだと思いました。「何でもいちいち分けなくてもいいのでは?」と、今は感じています。

皆の気持ちに寄り添って「少しずつ何ならできるか」を考える

神津 グレーゾーンではなく、カラフルゾーンか! なるほど。さて、プライベートなことをお伺いしますが、最初はモデルさんとしてデビューされたのですね?

トラウデン 中学に入った頃、部活もしていなかった私を母が見かねてモデルオーディションの大会に応募し、そこでグランプリをいただいたのがきっかけです。

神津 同志社国際高等学校に進み、現在は慶應義塾大学法学部政治学科で学ばれていますが、こういう道を選んだのには何か理由があったのですか?

トラウデン モデルの仕事は大好きなのですが周りの人たちが素晴らし過ぎるので、「私は見た目でない部分で生きていけるようにしておかないと」と思ったのです。勉強は好きだったので、仕事を続けながら大学を目指しました。

神津 お父さまはドイツの方で、お母さまは帰国子女なのですね。ご家庭では何語で会話されているのですか?

トラウデン 私はドイツに住んだことはありませんが、小学生の頃は毎年、夏休みをドイツの祖父の家で過ごしていました。両親の会話は英語で、私と母の間では日本語です。私と父の場合は、父からドイツ語で話しかけられて日本語か英語で返すこともあります。弟は、日本語しか話さないと決めているようです。

神津 ご家庭の中でいろいろなものの考え方や感じ方があるのを見てきたという土壌が、トラウデンさんの体の中にあるのでしょうねえ。

トラウデン うちでは毎晩7時のNHKのニュースを見ながら父がドイツ的な視点で話し、それに対して母が意見するという、政治議論みたいなことをしているのを小さい頃から見ていました。そうした経験が蓄積されていたのかもしれません。

神津 環境問題に関心を持つようになったきっかけは?

トラウデン 高校でドイツとオーストリアへ環境問題の研修旅行へ行き、風車の中を見たり、プラスチックごみを扱うエコステーションなどを見学したりしました。その時に「未来の地球に生きていくのは自分たちだ。それなら私はキレイな所がいいな」と思ったのです。

神津 確かにそうですね。姪がトラウデンさんと同じぐらいの歳で、中学高校とアメリカで過ごしたせいか環境問題に興味を持っているのですが、「昆虫食としてコオロギクッキーなどが流行っているけれど、駆除のためならともかく、そのために繁殖させるのは生態系を壊すことになるので本末転倒だと思う」と言うのです。

トラウデン おっしゃる通りだと思います。皆でコオロギを食べようとなったらほかの虫は? 生態系はどうなるのか? 日本人は真面目だからか、100じゃなければならないという傾向があると思いますが、0か100かではなく、少しずつ変えていけば良いのではないでしょうか。

神津 トラウデンさんは「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」の会議の中で、「一人の100歩より100人の一歩。100人の一歩をそれぞれが情報共有することで、200、300と、さらに知識と行動が増えていくのではないか」と発言されていますが、「100歩進めないのなら、やらない」という考えはやめて「1歩でも足を出してみよう」という意味ですよね。でも1歩ずつ進むのは面倒くさいし、何もしないで文句だけ言っているほうがラクなのかもしれません。

トラウデン 確かにラクかもしれませんが、0歩だと何も変わらないので楽しみも生まれません。まさに“三人寄れば文殊の知恵”で、今まで動かなかった人が動き始めたら創造力が発揮されてそのぶん知恵が出てきますし、いろいろな人が取り組めば取り組むほどさまざまなアイデアが出てくるので、それが楽しみにもつながります。そうやって皆が、楽しく夢中になって進むことができたらと願っています。

コロナ禍も環境問題も、変化を受け止め、柔軟でありたい

神津 トラウデンさんは「環境問題などに興味を持っていたり、言及したりするだけで『意識高い系』と思われてしまう」とおっしゃっていますが、それもある意味「分断」で、変えていかなければいけないところですね?

トラウデン 「環境問題は崇高な人がやるもの」という感じになってしまっていますが、そうではなくて、皆がやらないと進みません。私も多くの人と同じようにマイバッグを持ち歩いていますが、必要に応じてポリ袋も購入しますし、「フレキシブルになれることが続く秘訣」と考えています。

神津 いつも車に乗るところを今日は自転車で行ってみようか、といった感覚で、皆が少しずつ意識を持てばいいですね。環境保全に力を入れている店で知り合いがコートを買ったら、袋の購入も断られたので抱えて帰ったそうです。「そこまでやらないといけないものなの?」とこぼしていました。

トラウデン 環境を考えているとアピールするのは大事ですが、あまりにもやり過ぎると拒否反応が出てしまいます。「環境問題に配慮してヴィーガン(完全な菜食主義者)になろう」といったハードルの高いことは私もできないですし、今までの生活を大きく変えることになってしまいます。ですから、皆ができることを気持ちに寄り添った形で提案できればいいなと思っています。

神津 環境問題でもエネルギー問題でも、ハードルを高くして「どちらか選んで」と言われても、日常生活の中でできないこともたくさんありますよね。

トラウデン ただ環境問題に関しては急がなければならないところもあるので、いかにスピーディーに皆が「よし、がんばろう」と思えるかということを毎日考えています。どの程度だったら皆で一緒に歩み出せるのか? どこからならハードルが高くなるのか?

神津 何か大きなしくみを変えなくてはいけないのかしら? 昔、待機電力の多さが問題になりました。何とかしなければと皆が声を上げ始めたせいか、省エネが進み、今ではゼロに近くなっています。その話を伺った技術者の方が、「そういうことを考えなくても、できるようにしていかなければならないのが技術者の仕事だ」とおっしゃった言葉が忘れられません。

トラウデン その通りだと思います。ファッション業界でも、1〜2年前では「サステナブル(持続可能)な服」は環境を意識していると一目でわかるものでしたが、最近では「かわいいな!」と手に取った服が実はサステナブルだったということが増えてきています。

神津 あと、環境に配慮した物のほうが、価格が高いこともありますね。

トラウデン 数を増やせば安くなりますが、フェアトレード(公平貿易)で安くするべきではない物もあります。安ければいいという認識もこれから変わってくるかもしれません。

神津 私はたぶんトラウデンさんのお父さまと同世代ですが、姪など下の世代の人を見ていると、自然にゆるやかに環境問題に取り組んでいるように見えて、私にはそれがとてもうれしいのです。

トラウデン 私の周りでも、私が使っているマイボトルやカトラリーケースを見て「それかわいいね。どこの?」と聞いてくる人が増えています。変化を受け止めて柔軟に自分を変えていくことができる世代というか、変えていかなきゃいけない世代なのではないでしょうか。コロナ禍でいろいろな変化に直面し、受け入れなくてはならないことも経験しましたし、これから柔軟な人はますます増えていくと感じます。

神津 細菌による感染症も、大きな自然災害もこの先、決して無くならないでしょうし、そうした中でも変化を受け入れて生きていける“柔軟な人間性”がとても求められている気がします。

トラウデン 私も一昨年位から「柔軟であろう」が自分の中のキーワードになっていて、自分の流儀に反するから排除するのではなく、「ちょっとやってみよう」「詰まったら、こっちに行ってみよう」と柔軟でありたいと思っています。それで失敗してもいいし、失敗と思わなくていいし、失敗=ダメと思っていたら挑戦もできなくなりますから。

神津 21歳ならこれから何でもできると思いますよ! 将来の夢は?

トラウデン 環境問題や食に興味があるのですが、まずは自分が専門にしたいテーマを決めて、それを軸に自分だったら何ができるかを考えたいです。いつかドイツにも留学してみたいですが、「これを学びたい」という目的が見つかってからだと思っています。

神津 しっかり考えていらっしゃるのですね! これからも期待しています。


対談を終えて

対談の冒頭で言ったとおり、トラウデン直美さんはこのETTの代表対談で、最も若い人である。自分が、お、年長者になった証拠だなと思うのは、若い人と話をする時である。この代表対談でも辻田真佐憲さんなど、20代、30代の方々をお招きするようになった。それは2030年、あるいは2050年の話をするとき、たとえ私はリタイアしていたとしても、彼らはさまざまな分野で重要なポストにいるだろうと思うからである。彼らがいったい何を考えているのか、どんな歩み方を望んでいるのか、知りたいのだ。
トラウデンさんは「自分」をしっかりと持っている人だった。モデルという職業を大切にし、けれども発言も行動も、流されずに自分の「芯」をきちんと表明する。かといってガチガチではなく、そのくくりはコンクリートで固めるのではなく、やわらかいシフォンでくるむような感じだ。辻田さんのときも思ったのだが、彼らの世代には「やわらかさ」を持った人が多い気がする。その柔らかさ、しなやかさを失わずに、ご自分の思うことを形にして欲しいと思う。
両極には解がない……というのが私の持論だが、その中間にあるゾーンを、つい「灰色」とか「グレー」と表していた。今回、トラウデンさんとの会話の中で「カラフルゾーン」という言葉を知り、ちょっと嬉しくなった。そうだ、灰色じゃないんだ、カラフルなんだ。日和見は悪いイメージじゃないと言うのなら、灰色じゃなくてカラフルと言わなくちゃ。還暦を過ぎて大切なことを学んだ。ありがとうございます、トラウデンさん!

神津 カンナ

トラウデン直美(とらうでん なおみ)氏プロフィール

モデル/タレント/環境省サスティナビリティ広報大使
1999年生まれ。京都府出身。「2013ミス・ティーン・ジャパン」でグランプリを受賞し、13歳で小学館「CanCam」の史上最年少専属モデルとしてデビュー。現在は慶應義塾大学法学部政治学科4年在学中で、報道や情報番組でコメンテーターとしても活躍中。また、2021年1月より「環境省サスティナビリティ広報大使」を務め、同年2月からは厚生労働省「コロナ禍の雇用・女性支援プロジェクトチーム」メンバーの一員としても活躍している。

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