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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

大崎クールジェン株式会社見学レポート
脱炭素社会に貢献する石炭火力発電の新たな可能性

資源に乏しい日本では電力安定供給のため、石炭火力発電の高効率化・低炭素化への技術開発が急務となっています。2022年5月23日、神津カンナ氏(ETT代表)は大崎クールジェン株式会社(広島県)を訪れ、「革新的低炭素石炭火力発電」の実現を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」を見学し、世界も注目する成果や今後の課題などについて学ぶ機会を得ました。


S+3E+F(フレキシビリティ:柔軟性)が特長

大崎クールジェン株式会社は、中国電力株式会社と電源開発株式会社の共同出資により2009年に設立されました。休止中の中国電力大崎発電所構内にて、煙突や屋内貯炭場、ベルトコンベアなど発電所の設備を一部使用しながら、「革新的低炭素石炭火力発電」の実現を目指す国の実証事業「大崎クールジェンプロジェクト」を進めています。所在地である瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(おおさきかみじま)は本土と橋でつながっていないため、対岸からフェリーで向かいました。最初に大崎発電所建屋内の会議室で紹介ビデオを見て、社員の方から概要説明を伺いました。大崎クールジェンの社名には、国のクリーンコール(環境にやさしい石炭)政策の「Cool Gen計画」* を実現していくという思いが込められ、中国電力と電源開発から約80名の社員の方々が出向されています(2022年5月23日現在)。
*2009年6月に経済産業省の総合資源エネルギー調査会鉱業分科会クリーンコール部会にて提言された、IGCC、究極の石炭火力発電を目指すIGFCと二酸化炭素回収・貯留(CCS)を組み合わせた「ゼロエミッション石炭火力発電」の実現を目指した実証研究プロジェクトを推進する計画。

石炭は供給安定性をはじめさまざまな面で優れていますが、CO2排出量の多さから、より〝高効率〟で発電できる技術が必要とされ、特に「2050年カーボンニュートラル宣言」以降は低炭素化を社会から求められている空気をひしひしと感じるとのことです。日本の一般的な火力発電所は石炭を燃やして蒸気をつくり、タービンを回して発電します。その発電効率は最新鋭の発電所で世界最高水準の約40%* です。さらなる効率化・低炭素化の目標達成に向けて「大崎クールジェンプロジェクト」では3段階で構成される実証試験を、経済産業省とNEDO** の支援の下、2012年度から実施してきました。「エネルギーセキュリティという面はもとより、石炭から水素を大量につくる技術と、CO2分離回収技術を組み合わせ、将来はカーボンリサイクルが進むことで、水素社会にもカーボンニュートラル*** にも貢献できる石炭火力発電の実現を目指すプロジェクト」とのことで、構内には国に指定された「カーボンリサイクル実証研究拠点」も備えています。
*数値は送電端効率、高位発熱量基準(HHV)(低位発熱量基準(LHV)では約44%)。
**国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構。
***温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。


大崎クールジェンプロジェクトの概要

(図)


 

【第1段階:酸素吹IGCC(石炭ガス化複合発電)実証】(2016〜2018年度)
<成果>従来の石炭火力と比べ高効率で発電
微粉にした石炭を「ガス化炉」で石炭ガス化し、ガスタービンを回して発電します。さらにその燃焼排ガスの排熱で蒸気をつくり蒸気タービンを回す「複合発電」(166,000kW)を行うことで、商用機で発電効率約46%* 達成の見通しが得られました。これは、従来の微粉炭火力と比べてCO2排出量約15%削減が期待できることを意味します。「ガス化炉」は上下2段のバーナで上下の酸素供給量を適切に制御することで高いガス化効率を実現し、安い低品位炭でも利用できることを確認しました。プラントの負荷変化率も通常3%/分のところ最大16%/分と従来型の火力発電所よりはるかに高く、再生可能エネルギーの急な出力変動にも対応する〝調整力〟と、従来型と同等の〝経済性〟を実証し、ベースロード電源・調整電源の両方で活躍できる見通しを得ました。
*送電端効率(HHV)(約49%(LHV))。

【第2段階:CO2分離・回収型 酸素吹IGCC実証】(2019〜2022年度)
<成果>CO2分離回収設備を組み合わせ、CO2排出量を大幅削減
第1段階の石炭ガス化ガスの一部を分岐→「 シフト反応器」でCO(一酸化炭素)をCO2とH2(水素)に変換→「CO2吸収塔」でCO2のみを分離回収することで、CO2排出量を約90%削減できる基本性能を2020年に確認しました。回収したCO2は配管を通して敷地内の「カーボンリサイクル実証研究拠点」へ供給し、資源として再利用する技術開発が今後研究されます。また、CO2を液化し、トマト栽培への有効利用* も計画されています。一方、「CO2吸収塔」で分離後の石炭ガス化ガスは、水素リッチガスとなってガスタービンへ送られ発電、商用機で発電効率約40%の見通しを得ました。なお、CO2分離回収技術には、高圧下でCO2回収が効率よく行える「物理吸収法」を発電プラントとして初めて採用しました。
*ハウスの中のCO2濃度を上げると光合成が活発になり、トマトが大きく育つ。

【第3段階:CO2分離・回収型IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)実証】(2022年度)
<目的>燃料電池を導入し、さらなる高効率化を目指す
CO2分離回収することにより商用機で46%→40%* に低下する発電効率を改善するため、得られた水素リッチガスを「燃料電池設備」に供給し、ガスタービン・蒸気タービン・燃料電池の「トリプル複合発電」で発電効率を47%** に高める試験を2022年4月から開始しました(2022年度中終了予定)。「燃料電池設備」は、燃料電池セルチューブを約10,000本入れた600kW級のモジュール(直径約3m×長さ約12m)を2基並列に設置しました。このように石炭から水素をつくって高温型燃料電池で発電するIGFCは世界初の試みです。石炭ガス化複合発電についても、これまでの成果から水素35%を用いて約1300℃で燃やせることを確認できているとのことです。大崎クールジェンで用いられている技術をもとに、水素100%用のガスタービンもメーカーにより今後開発予定とのことです。
*送電端効率(HHV)(49%→43%(LHV))。
**送電端効率(HHV)(50%(LHV))。


実証試験の開発目標イメージ

(グラフ)


 

社員の方の説明によると、ガスタービンや蒸気タービンを回して発電するしくみはLNGを燃料とする発電方式とほぼ同じとのこと。一方、従来型の石炭火力発電がボイラーで燃焼後にCO2を回収するのに比べ、大崎クールジェンの複合発電設備は「ガス化炉」で石炭をガス化するため、燃焼前のガスから濃度の高いCO2を効率良く分離回収できる特長があります。また、大崎クールジェンの複合発電設備は、幅広い石炭の種類に対応でき、高い負荷変動率からエネルギー政策の基本となるS(安全性)+3E(安定供給・経済性・環境)という特性に加え、F(フレキシビリティ)を併せ持つ、従来型の火力発電所にないものとなっています。

世界初! CO2分離回収後の高濃度水素による燃料電池複合発電

見学当日も10万kWで実証運転中で、立ち入り制限されているため、各設備は俯瞰で見学させていただくことになりました。「中央制御室」では6人体制×2交代で運転されているそうで、モニターで各設備の動きを監視している様子がガラス越しに見えました。

次に建屋の屋上に上ると、真っ青な海に数多くの島が点在し、フェリーが行き交い、正面に広島の呉、とびしま街道も見えるという風光明媚な景色が広がっていました。運転音がする構内を一望すると、目の前に一番背の高い「石炭ガス化設備」(全高約75m)、その左に「ガス精製設備」や「複合発電設備」など、説明を受けた設備が配置されています。その左奥には第2段階でつくられた「CO2分離回収設備」があり、COをCO2とH2に変換する「シフト反応器」や、CO2を取り出す「CO2吸収塔」などで構成されていることがわかりました。さらに奥には第3段階で設置された、筒型の「燃料電池設備」があります。また、建設工事中の「カーボンリサイクル実証研究設備」も見えました。

再び1階に降り、構内を車で走って桟橋で降りました。目の前には、ガスタービンと蒸気タービン、そして発電機を組み合わせた「複合発電設備」や、空気を酸素(石炭のガス化に利用)と窒素(石炭の搬送等に利用)に分ける「空気分離設備」などがあります。各設備が無数の配管で非常に複雑につながっている様子を間近で見て、世界に先がけたプロジェクトの緻密さと大変さが感じられました。安全対策について質問すると、ガス漏れ対策としては構内にガス検知器を約200カ所設け、運転員の方がパトロールする際はガス検知器を携帯されているとのことです。また、何か異常が起きると中央制御室で状況を把握できるしくみになっています。


回収した莫大な量のC02を今後どうするか?

最後に今後の研究課題を伺うと、「回収した莫大な量のCO2をどのように扱うかが課題です」と回答がありました。回収後のCO2の扱い方は〝貯留〟か〝利用〟の2通りが考えられるとのことです。そのうち、利用という面では化学品・燃料・鉱物などに再利用する「カーボンリサイクル」の技術開発が国主導で今後進められていくとのことです。ちなみに大崎クールジェンのCO2分離・回収型IGFCがフル回転すると、なんと約410トン/日ものCO2が回収できるそうです。現在、そのうち、カーボンリサイクルに使われるのは約2トン/日、液化して利用できるのは約5トン/日なので、「回収したCO2のほとんどはもったいないが戻して捨てている」とのことです。

「そもそも石炭火力で出るCO2の量はざっくり言うと、石炭の使用量の倍になります」と聞き、「そんなに出るの!?」と驚きの声が上がりました。石炭中の炭素の含有率は約6割で、計算上、C(炭素)を燃やしてCO2になると約2.2倍になります。「燃やすと、酸素と引っ付くことでエネルギーを放出しCO2になるだけです。一方、大崎クールジェンのガス化炉では石炭を蒸し焼きにして、一酸化炭素(CO)と水素(H2)をつくり出した後、水蒸気と反応させて高濃度の水素(H2)とCO2にし、水素を燃料として活用しています。大崎クールジェンの石炭ガス化技術は、結果的に燃やす場合と同量のCO2を生み出すと同時に、水素(H2)も大量につくり出せる革新的な技術なのです」と説明してくださって納得しました。「大崎クールジェンプロ ジェクトは2012年に始めて以来、この10年で技術開発は非常に進みました。いろいろ難しい問題もありますが、脱炭素社会のために今後も研究開発を続けていきたいと思っています」との言葉にさらに期待を膨らませつつ、帰途に着きました。


懇談を終えて

実は「大崎クールジェン」の視察はだいぶ前からお願いしていた。もちろんOKは取れたのだけれど、新型コロナウイルスの流行で移動が制限されたため、航空機を使い、船に乗らなければならない「大崎クールジェン」の視察はなかなか実現しなかった。おそらく4回ほど日延べしたのではないだろうか。でも私たちはあきらめず、見学できる日をひたすらに待った。だから実現の運びになったときは、本当に心の中で歓声を上げた。
この間に、色々なことを考えた。その最も大きなことは「待つ」ことの重要さである。今の時代はスピードが何よりも重要視される。たしかにスピード感は大切である。けれども、どんなに急いでも「待たなければ」ならないものは必ずある。そして待っている間に熟成されるものもある。待つこと、そしてその間に惰眠を貪るのではなく、粛々と技術や研究を切磋琢磨して高めていくことは、ある意味では拙速さよりも意味を持つ。よく言われることだが、念願の「大崎クールジェン」の説明を聞きながら、そのことを痛感した。もちろん時間との勝負ではあるけれど、「革新的低炭素石炭火力発電」の実現は、決して短期間でできるものでないのだ。この会社も設立されてからもう13年になる。一足飛びには実現できない技術のために、黙々と、瀬戸内の小島で社員の方々は石を積むように頑張っている。その姿や会社のありように胸が熱くなった。石炭火力発電は、使用する石炭の量の倍ほどのCO2を出すという。量もたくさんあり、安易に発電できる石炭だが、マイナス部分も大きいのだ。今の時代ではまるで悪者のように言われてしまう。しかしそれを何とかしようと奮闘している社員の方々の姿を見て、こういう技術や研究に支えられ、カーボンニュートラルは実現するのだと分かった。ひらめきや偶然には頼れないのだ。帰りのフェリーで夕陽を見ながら、私は待つこと、そして積み重ねることの大切さ、それこそが日本の力、日本の宝なのだと思った。

神津 カンナ

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