特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

燃料供給インフラ企業(株式会社タツノ)見学レポート
給油機=計量機、「燃料を正確に計る」技術の大切さ
 

セルフ式のサービスステーションが増え、「給油」は身近なものになっています。2020年1月21日、神津カンナ氏(ETT代表)は、車に給油する機械を製造販売してきた燃料供給インフラ企業:株式会社タツノを訪問し、約100年前の給油方法から、環境性・経済性・安全性に配慮した最新の技術まで見学し、多くの学びと気づきを得ることができました。

約100年前の大正時代に、日本初のガソリン計量機を製作

株式会社タツノ(以下、タツノ)は1911年(明治44年)に創業し、1919年に日本で初めてサービスステーション(以下、SS)用のガソリン計量機を開発しました。以来100年超にわたり、燃料供給インフラ企業として車をはじめ航空機、船舶への燃料供給機器などを製造販売しています。また、危険物の貯蔵所や取扱施設の設計施工およびメンテナンス業務も行っています。タツノの総合工場である横浜工場には計量機やエネルギー関連機器などを展示したショールームが併設され、小学生から海外の取引先企業まで年間約3,000人が見学に訪れるそうです。最初にプレゼンテーションルームにて、社員の方から企業の概要について説明を受けました。

「車に給油する機械を何と呼んでいますか? 我々は『給油機』ではなく『計量機』と言っています。ガソリンなどの燃料を供給する際には、正しい量を『計る』技術が大切だからです。例えばスーパーでお肉が○gと記載があれば、それを信じて買いますよね? ガソリンも正しい量が計れないと販売できません」というお話に、あらためて「燃料を正しく計る」意義に目が向きました。タツノが製造するガソリン計量機は事業開始から常に国内シェア60%以上を保持し、海外は75カ国以上に輸出されています。またそのノウハウを生かして、航空機、船舶、列車などの給油にも携わってきました。

最初に見学したレトロ計量機コーナーには、形もしくみも異なる4台が並んでいました。約100年前に発売された「手動式計量機(1922年製)」はハンドルを回すと目盛りが動くしくみで、機械遺産に認定されています。その隣にある、柱時計のような文字盤が目盛りの「時計式計量表示の計量機(1947年製)」は戦後使用されたものです。「固定式計量機(1953年製)」は1回目盛りの針が回るとチンと鳴って5ℓ給油できるしくみで、それをデジタル表示化した1964年製(東京オリンピック開催当時)の計量機は四角くコンパクトになっていました。今見るとレトロでおしゃれな外観も、機能も、どんどん進化をしてきた歴史をたどることができました。

 環境性・経済性・安全性を考え、進化している給油設備

ガソリンタンクの地下を再現した地下タンクコーナーでは、タンクに空けられた穴から内部の構造を見たり、上からバルブや埋設配管を見たりできるよう工夫されていました。SSの地下環境を守るため、地下タンクも進化しているとのことです。従来の鉄製だと腐食による油漏えいの恐れがあるため、内側に樹脂加工を施した多重構造になり、埋設配管も埋設部で接続することなく曲げられる樹脂製の長尺配管が使われています。タンクの表面をスクリーンにしたプロジェクションマッピングでは、水素・LNG(液化天然ガス)にも対応できるマルチサービスステーションなど、次世代のサービスステーションづくりが映像で紹介されました。社員の方に、地下タンクの耐久性を尋ねたところ、消防法では40年で取り換えるよう定められているとのことです。また、タンクに高精度油面計を設置すると、油漏えいを早期発見できるというお話でした。

地下タンクから計量機にガソリンを送る「ピストン流量計」も展示されていました。日本では計測誤差±0.5%と定められていますが、この機械では±0.2%しか誤差が出ません。例えばSSが毎月100㎘のガソリンを販売すると、誤差が0.2%と0.4%の流量計では、7年間で計算すると2,352,000円も差が出る可能性があります。500㎖の0.2%はわずか1cc、その量を見せていただくとほんのわずかですが、まさに「塵も積もれば山となる」で、計る精度の大切さを思い知らされました。

壁一面にさまざまなタイプが飾られたノズルコーナーでは、従来型のノズルと、セルフ式用に軽くしたノズルを持ち、重さの違いを比較しました。傍に置かれた計量計で重さを計ると、従来型は1,015g、セルフ用は645gでした。社員の方から「セルフ式で給油する時、満タンになる前になぜ止まるのでしょう?」と質問されました。答えは、ノズルの先端には空気を取り込む穴が開いていて、ガソリンでふさがれると、中の弁が落ちて給油をストップするしくみになっているからです。また、ガソリンを入れる際には空気の泡も混ざってしまいますが、泡を出にくくしてより多くガソリンが入るよう開発されたウルトラノズルと通常のノズルの給油量の差を実験で比較したところ、通常のノズルが62.2ℓに対し、ウルトラノズルは72.5ℓも入りました。軽く、たくさん、安全に給油できるよう研究され、ノズルも進化していることに驚きました。

SSゾーンではまず、最新型環境配慮機器として開発された世界初の「ガソリンべーパー液化回収機能付き計量機」(ガソリンのリサイクル計量機)を見ました。ガソリンは揮発性が高く、20℃で10ℓ給油する際に0.15%の15㎖は給油口から空気中に蒸発してしまいます。そこで経済性と環境性、安全性を考え、給油時に発生するガソリンべーパー(ガソリンが気化したもの)をノズルで吸って二重構造のホースから計量機に回収し、圧縮で液化して再利用します。すでに全国で約3,000台が普及し、「e→AS(イーアス)」マークを目印とする、環境省認定「大気環境配慮型SS」で使用されていると伺い、計量機もここまで進化していることに驚きの声が上がりました。次に見た「アドブルー(尿素水)補給機」も最新型環境配慮機器の一つで、トラックステーションなどに設置が進んでいるそうです。トラックやバスなど、ディーゼル車の排ガス中の窒素酸化物(NoX)に尿素水(NH3)を噴射して化学反応させ、無害な窒素(N2)と水(H2O)に分解するしくみです。

次に、セルフ給油体験コーナーを見学しました。全国のSSのうち、セルフ式は約3割です。セルフ式と言っても、実は日本では消防法で「有人セルフ」と定められており、セルフで給油する際には、常に有資格者のスタッフがパソコンのモニターで様子を確認し、給油許可やストップなどの指令を出しているそうです。日本は安全で安心、見えない所で守られていることを感じました。また、静電気除去コーナーでは、自分の帯電量を計ることができ、セルフ式では「静電気除去シート」に必ず触れなければならないことを実感させられました。

“ガソリンに代わる次世代の自動車燃料を模索

新エネルギー関連製品のコーナーには、CNG(圧縮天然ガス)や、マイナス162℃で冷やし続けて使うLNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、水素を使用する計量機がそれぞれ設置され、環境のことを考えた車の燃料の変化を伺い知ることができました。この中でCO2の排出が最も少ないのは水素です。水素計量機には、高圧の水素ガスを正確に計る「コリオリ流量計」が採用されています。水素ガス5kg(約5,000円)の満タンで約600km走行でき、経済的にはガソリンと遜色ありません。現在、国内の水素ステーション数は約100カ所あります。ガソリンは消防庁の管轄ですが、気体の燃料は経済産業省の管轄で、水素の充填もセルフ式にしようとする動きが早くもあると伺いました。

世界のサービスステーションの特徴を写真で見た後、人型ロボットを使った「全自動加工24時間システム」のオートマチックな南工場内を歩き、屋外に出て構内にある「水素ラボ」を見学しました。実際に水素を用いての実験や、実車への充填試験を行っている、日本初の屋内型充填設備です。建物内には無数の配管が設置され、傍には水素計量機の精度測定車が停められていました。充填の評価試験の際には使った水素を一旦ブースターに戻し、再昇圧しながら再び使うなど、水素のリサイクルをしているそうです。水素自動車は燃料電池車(FCV)の一種です。水素と酸素の化学反応で燃料電池を発電し、モーターを回します。「水素自動車に乗ってみませんか?」とお誘いを受け、神津代表がクラリティ(Honda)のハンドルを握り、構内を試運転しました。エンジン音がなく、無音で走行することにガソリンとの燃料の違いを感じました。車を降りてマフラーの下を見ると水が出た形跡があり、CO2を出さず水蒸気だけ排出することがわかりました。

「フォークリフト用水素充填設備」の前に行くと、水素を充填して動く「FCフォークリフト」が停まっていました。ここで使う水素は、工場の天井に備え付けたソーラーパネルの太陽光エネルギーで水を電気分解して製造したものです。このFCフォークリフトは構内で実際に使用しており、運べる物は通常のフォークリフトと変わらないとのことです。アメリカでは、倉庫内でCO2を排出しない水素を使用するフォークリフトの需要があるというお話でした。

その後、北工場の組み立てラインを見て、一連の見学を終えました。ガソリンは熱効率が良く、自動車の普及が進むインドなど外国でもまだまだ必要とされているエネルギーです。そのためガソリンのCO2排出を抑えるよう工夫された計量機やノズルの開発製造、さらにはガソリンに代わる燃料供給の現状など、身近な車の燃料にまつわるさまざまな情報や知識を系統立ててわかりやすく学ぶことができ、とても興味深く有意義な見学となりました。

視察を終えて

文句なしに面白い見学だった。私が個人的になるほどと思ったことはいくつかある。一つは「計量」というものの面白さだ。確かに私たちは長さも容量も重さも信じているが、かつてそれらには必ず「原器」があった。今でこそ原器の重要性は薄れ、レーザー光線などを使うようになったようだが、暮らしが計量に支えられていることを思い知らされた。二つ目は日本の技術力だ。世界でグローバルに商売をしている計量機メーカーは三社。タツノはその中に入っているが、それはとりもなおさず他のメーカーでは真似のできない製品の誤差の少なさである。また給油時に揮発する少量のガソリンをノズルに吸い取り、再利用するリサイクル計量機。これは環境面、経済面ともに役立つ開発だ。誤差分や少量を無駄にせず高い技術力で商品価値を高める。日本ならではだと思った。そしてもう一つ。私たちは日常「セルフ」のSSを当たり前のように使っているが、セルフの意味合い、静電気除去シートに触れる順番、消防法の意味など、実は誤解していたことや知らないことが山のようにあることも実感した。
タツノはもちろんガソリン計量機から出発した会社である。しかし今はガソリンだけに留まらず、LNGやLPG、そして水素まで視野に入れている。「計量」を元に、エネルギー源の供給機器開発メーカーとして先も見据えているのである。「変わり続けるエネルギー業界に、変わらない信条で柔軟に対応。」……これはタツノのコーポレートプロファイルの最後に書かれていたことばである。その姿を見ることができた一日だった。

神津 カンナ

ページトップへ