特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

中国地方メンバー懇談会
中国地方に暮らすメンバーたちと考えるエネルギー

ETTでは2020年に迎えた設立30年を機に、神津カンナ代表が各地域を訪問し、メンバーの皆さまとともに地域のエネルギーの歴史や課題などを議論・意見交換する懇談会を企画しました。第3回目となる中国地方メンバー懇談会は2021年8月の予定でしたが、コロナ禍のため延期し10月7日に開催しました。



石原孝子氏(島根県松江市在住)松江エネルギー研究会代表
沖 陽子氏(岡山県岡山市在住)岡山県立大学学長
坂本和子氏(広島県三原市在住)NPO法人キャリアネット広島理事
徳田洋子氏(広島県広島市在住)(公社)広島消費者協会名誉会長/

                  消費生活アドバイザー
樋口章子氏(山口県下関市在住)消費生活アドバイザー
福村敬香氏(島根県松江市在住)松江エネルギー研究会副代表
藤井宣惠氏(広島県福山市在住)消費生活アドバイザー/民事調停委員
吉冨崇子氏(山口県山口市在住)山口県地域消費者団体連絡協議会会長

子どものうちから学校でもっとエネルギー教育を

神津 本日は中国地方、と一口に言っても広い所から広島にお集まりいただきありがとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

 私は雑草を専門に研究をしてきた、神戸生まれの関西人です。岡山大学に38年間勤めた後、岡山県立大学からオファーを受け、5年目を走っています。1991年、「中国地域エネルギーフォーラム」から、女性の目で見たエネルギー環境調査団に選ばれたことでエネルギーに興味を持ち、ETTと関わらせていただきました。エネルギーそのものは専門でないため、神津代表のお話やエッセイなどの資料を読んで勉強させていただいています。

福村 私の仕事は英語講師で、今朝も授業をしてきました。松江市には原子力発電所があるから「いい」「悪い」ではなく勉強しようと、石原さんと「松江エネルギー研究会」を始めて20年近くになります。ETTの活動内容は石原さんから常々伺っていましたが、2年前に仲間入りさせていただきました。

石原 「松江エネルギー研究会」の代表を務めています。原子力発電とエネルギーについて勉強しようと2005年に立ち上げ、コロナ禍の前は島根大学の学生など若い人たちも巻き込んで視察や勉強会を行っていました。ETTにはお誘いを受け、2010年に入会しました。地元では一昨日、中国電力島根原子力発電所2号機の再稼働に向け、中国電力管轄の地域住民に対して県から説明会がありました。県や市への事前了解や、住民への情報開示、県や市の議会、UPZの議会への合意形成を得て、GOサインが出るかどうかは来年以降です。

樋口 下関市から参りました。ETTに入ったきっかけは、「山口県地域消費者団体連絡協議会」でご一緒していた吉冨さんから「エネルギーに興味ある?」と聞かれ、あまり興味はないけれど…と思いながら2000年に入会しました。見学会や講演会に行かせていただくうちに、「この経験を地元に生かせないものか」との吉冨さんの意見に賛同し、「山口エナジー探偵団」を2001年に設立しました。後援がないため参加費(1,000円/3回)を設け、講演会、見学会、学習会などを開催しています。

吉冨 出身地は千葉県、夫の転勤で8回転居しました。「広島消費者協会」で活動していた時に「山口に帰ったらETTに入って勉強しなさい。これからエネルギー問題はとても大事になると思う」と会長さんから言われ、推薦をしていただき1994年に入会しました。その後、樋口さんというパートナーを得て地域に広めようと「山口エナジー探偵団」を立ち上げました。消費者活動のなかでもエネルギーは大切な分野として位置付けて活動しています。

藤井 夫の実家がある福山市に引っ越して来たのが昨年で、その前は四国の松山市にいました。四国電力がMOX燃料を採用しようとしていた頃、女性たちでエネルギーや環境問題について考えようと「えひめエネルギーの会」を2004年に発足させ、3代目代表になった2008年にETTに入会させていただきました。ETTメンバーの方々に会の運営方法など教えを乞い、ETTで学んだことを会にも反映させて活動しました。

徳田 1970年、「広島消費者協会」発足時から消費者運動に関わり始めました。1973年のオイルショックで「くらしを守るためにエネルギー問題は大きい」と気づいてからは、事業者、消費者、行政の三者が一体となってエネルギー、食、環境の問題を話し合う三者懇談会をテーマに活動を進めてきました。ETTには「エネルギーの勉強を」と誘われ、1999年に入会しました。去年、5代目会長職を退職しましたが、自分のできる範囲で活動は続けていかなければと思っているところです。

坂本 私は中国電力の元社員で原子力広報を担当していたことから、ETTをはじめ地域の女性団体と関わりを持ちました。定年になって15年ですが、その余波で今もいろいろな活動に携わっています。NPO法人「キャリアネット広島」の理事として若者と交流したり、三原市で女性団体を束ねる会長を務めたり、また「広島県共同募金会」の評議委員として「スペシャルオリンピックス2022広島」もバックアップしており、来年に向けて一生懸命やりたいと思っているところです。

神津 中国地方には原子爆弾が投下された広島市、原子力発電所が立地された松江市があり、日本海側と瀬戸内海側では雰囲気も異なるなど、いろいろな顔を持った地域だと思います。ご自分の地元ではエネルギーに関してどの程度関心がありますか?

石原 山陰と山陽では住民の意識が違います。松江市や島根県では原子力推進と表立って言わなくても、「原子力なしでは経済が回っていかない、商売が成り立たない」と、皆がわかっています。

坂本 私が住む広島東部では、エネルギーについて関心はありません。特に若者は危機管理意識がない感じがします。

徳田 年齢が高い主婦のなかには、食品ロスの問題などでエネルギーに関心がある人もいます。

藤井 四国では団体に入って勉強していたので、家でも省エネを気にしたり、大学の学園祭に参加してエネルギーに関心を持ってもらう活動をしたりしていましたが、こちらに来てからはどこにも所属していないので、エネルギーについて会話する機会がなくなってしまいました。同居している息子ともエネルギーの話はしません。

吉冨 エネルギーに非常に関心が高い人と全く無関心の人が二極化していて、無関心の人のほうが多いのではないでしょうか。「電気代には再エネ賦課金がかかっていますよね?」と問いかけても反応はあまりなく、電気代の内訳にすら、関心が低く、生活に密着した感覚がないことに危機感を覚えます。目に見えてわかりやすく、実感できるものを伝える手立てを考えないと人には通じないと感じます。

樋口 「山口県地球温暖化防止活動推進員」として小学校に講義に行くと、小学生は地球温暖化もリサイクルも知っていますが、家庭でエネルギーについて話題にすることはないそうです。田舎に住んでいるとガソリンが上がると家計に影響しますが、だからエネルギーの勉強をしようとはならないので難しいですね。啓発のためには同じことを繰り返し説明していくしかないことに時々脱力感も生まれますが、頑張って活動しています。

石原 私も「島根県地球温暖化防止活動推進員」を18年勤めています。脱炭素の冊子をつくるために学校取材に行くと、親が電気代を払っている実家暮らしの学生と違って、一人暮らしの学生は電気代節約の知恵と工夫が身に付いています。

福村 子どもたちが「家に誰もいないけれど、帰った時に冷えているようにクーラーを点けっぱなしにして来た」と話しているのを聞くと、電気が使えない経験を一度させたほうがよいのではないかという気さえします。中学校の理科の授業で中国電力に行って放射線のことなどを学んだ時、何人かの生徒が目を輝かせているのを見て、エネルギー教育をもっと取り入れてほしいと実感しました。例えばNHK教育テレビで子どもたちにわかりやすく伝えてもらえたらと思います。

 大学は「気づき」を与える場だと思っています。社会貢献の体験で、洪水の被害に遭った倉敷市真備町でボランティア活動をした学生は、ライフラインが切れたらどうなるのか気づかされたようです。若い人はまっさらな状態なので吸収しやすい、そしてわかれば動くという面もあります。ただ、エネルギーや原子力はどうなるのかといった、将来を考えてディスカッションするというところまでは到達していないので、ETTの力を借りて上手に環境教育をやらせていただければありがたいです。

神津 大学だけでなく、皆さんも「気づき」を与える方策が何かありませんか? 例えば分散型電源や分散型の暮らしが提案される一方で、スマホは財布や定期、連絡帳代わりにと多機能になっています。もし電気がなくなって充電ができないとたいへん困ったことになりますが、そういうのをどう思う?と問いかけるのも一つの手ですよね。

樋口 地震などで電気が使えない経験をすると、電気は大事だと初めて気づくのではないでしょうか。充電できなくてスマホも使えないから買い物もできないし電車にも乗れないといった「電気が使えない日」を年に1回つくって皆で経験したらいいのではないかと思います。

 コロナ禍ではリモートでオンライン授業を行うため皆がパソコンに張り付いていますが、これも「電力がなければできないことだ」と一度でも考えたことはあるのかな?と思ってしまいます。

吉冨 私が気になるのは、物事を判断する時に「右か左か」とか、はっきり決めることが良いとする風潮が強くなってきていることです。「メリットもデメリットもありいろいろな側面があって物事はできている」という視点を変えて考える、選択するという教育がされていないので、極端になるのではないでしょうか。バランス感覚が欠如しているのではないかと思います。

石原 一昨年フィンランドのオンカロを訪れましたが、中学校の授業で先生が「これどう思う?」と常に考えさせて生徒をほめる様子を見て、知識を詰め込む日本の教育との違いに驚きました。

 多様性を理解してもらいたいのはまず先生のほうです。今の若い人はYESかNOかでグレーゾーンが嫌いですし、「ムダの効用」にも気がつきません。ムダなことをしている時にキラリと光るものを見つけたり、身に付いたりすることがあるのです。

吉冨 今はムダと思っていても、何年か先にちゃんと生きていることってありますよね。

田んぼをつぶし、キラキラ輝く太陽光パネルへの違和感

神津 ETTのホームページでもご紹介していますが、植物や古代生物を研究されている先生方と対談をしているなかで、新種を見つけるポイントは「違和感」で、膨大な知識の積み重ねがあるからこそ「違和感」が感じられるのだと伺いました。ETTに課せられているものの一つがエネルギーの知識の蓄積だとすると、皆さんは「これは変だな、どうなっているんだろう?」といった「違和感」を感じることはありますか?

樋口 私は田舎に住んでいますが、太陽光パネルの多さに「違和感」を感じます。後継者がいなくて田んぼを売り払ってしまうので、草ぼうぼうのなかに太陽光パネルが設置されている荒れ地もありますし、うちにも「田んぼを売ってください」と電話がかかってきます。里山の風景を大事にしようと言う一方で、自然の景観を壊してキラキラ光っているパネルを見ると太陽光発電に対して疑問符を付けざるを得ません。

 のどかな風景が楽しめる在来線の線路沿いに恐ろしいほどの数の太陽光パネルが設置されているのを見て、私も「違和感」を覚えます。どこまで進めるのだろう?という恐怖も感じます。

福村 「環境にやさしい」という売り文句とは逆になる、環境への「違和感」を感じてほしいですね。

吉冨 私は農家をしていませんが農業委員です。太陽光の問題は、農家に後継者がいないことと、相続によって土地が細かく分けられても、離れて住んでいる人は管理できないという理由で手放しその結果太陽光へというケースも多いです。また誰が設置するのかというと県外のしかも個人が投資目的で設置するケースもあります。農業委員は農地転用の際に水路の確保などを確認しますが、パネルの設置については意見を言えないので、景観保護や環境保全、災害防止のためにも管理要件を厳しくしていただけることを希望します。どこまで設置が進むのか気になることです。

石原 「うちエコ診断士」としていろいろなお宅へアドバイスに伺っていますが、最近は「太陽光パネルを設置してもうすぐ10年。今まで電気を売っていたけど、これからは払うの?」とよく聞かれます。

吉冨 売電価格が下がってきていますから、投資目的の人はこれから手を引くかもしれません。設置者にはパネルの廃棄費用の積み立てが法律で義務化されるようですが。

藤井 国民がエネルギーに関して不安に感じることのない日々を送られるようにするのは国の責任だと思っていますが、国に、エネルギーに関心を持たされないようにされているのかな?と、ふと感じることがあります。私たちはどういう国民であればよいのでしょうか? もし国民がエネルギーについて関心を持って何か行動をしなければならないのなら国の考えでそう教育をするべきですし、法律をつくるにしても国がしっかり考えて国民に方向性を示してほしいです。

 環境行政は民意では解決できないこともあるので、国が方向性をしっかり示してほしいですね。雑草を研究していると、タンポポでも自生地によって姿形が異なることがあります。環境が生物を変え、生物が環境を変え、双方向で複雑に動くので、自然との共生は広い視野から考えないと難しいのではないでしょうか。岡山県でも太陽光パネルの設置問題は、進めたい人と防ぎたい人、双方の陳情が多いのですが、環境省が方針を定めないと県では方針が出せません。岡山は太陽光には恵まれているが風力には適さないなどの地域性がありますから、エネルギーは地域で考えないといけないと感じています。


前になかなか進まなくても続けていくことが大切

神津 これからのETTや、エネルギー問題について望むことを最後にお聞かせください。

 ETTは冊子やホームページなどで、とてもよい資料を出していると思います。各領域の最先端のお話も貴重ですし、難しいことを噛み砕いて説明してくださるので勉強になります。今後はグリーンカーボン*やブルーカーボン**の特集もしていただければと思います。
*陸地の二酸化炭素吸収量。 **海の二酸化炭素吸収量。

坂本 景気がよかった頃は電力会社が旅費を出して、女性たちを集めて見学会や講演会などを催していましたが、今はそうもいきません。再稼働に向け、電力会社はETTのような団体の力も借りながら何ができるかを考えてほしいと思います。

徳田 「継続は力なり」で、前になかなか進まなくても続けていくことが大切です。相互理解を深めるためにはやはり「対話」が大事で、企業が住民と対話することはファンづくりにつながると私はいつも思っています。相手のことを聞いて知ったうえで相手に望みを伝える、エネルギー問題についてもそういった丁寧な対話をぜひ進めていただきたいです。

藤井 今日お話しに出た学校教育からとなると膨大な時間がかかりますが、ETTは講演や見学などの体験を通してエネルギーについて知り、考える時間をピンポイントで与えてくれます。これからもいろいろな所で、さまざまな情報発信をしていってほしいと思います。

吉冨 ETTでは長い間、たくさんのことを学ばせていただきました。細かい数字は頭から飛んでしまっても「おもしろそうだな、何かできないかな」という好奇心がある限りは学び続け、広く人に伝える役目が果たせたらと思っています。

神津 昨今の世の中は、きちんと伝えることに手を抜き過ぎているのではないかと思います。ETTは大きな力のある団体ではありませんが、「あの人が言うことはおもしろい、聞きがいがある」といった魅力的な伝え手として、人に伝えることに手を抜かない活動を続けていきたいと考えています。本日はありがとうございました。


懇談を終えて

確かに日本の国土は狭い。けれども地域によって色々な違いがあることは事実だ。そして地域によって……とは言いながら現実的にはその中にも多様な顔が存在する。これは世界中どこも同じなのだろう。そこに、地球温暖化問題など、「世界中で皆、同じ方向を見て行動しなければいけないこと」が課題として与えられると、これは難しい。総論賛成、各論反対の構図になってしまうからである。
ETTメンバーを訪ねて、各地を回ってお話を聞くたびに感じることである。
懇談の中でも出てきたが、瀬戸内に面した地域、日本海に面した地域。原子力発電所のあるところ、原子爆弾を受けたところ。九州文化の影響が大きい箇所、大阪文化の影響が大きい箇所。ひとくちに中国地方といっても、文化も人口も気質もさまざまだということを実感した。そんな日本各地にいるETTメンバー。難しさも多々あるが、ある意味で様々な問題を解く鍵が「ここ」にあると思った。
ETTのメンバーは地域だけでなく、たとえば年齢も性別も、職業にしても境遇にしてもまちまちだ。それが「エネルギー」という大きな問題をともに考えている。思いも、考え方も決して一枚岩ではないだろうが、それだけにETTのあり方はいわば一つの良い例になるだろうと感じ、ちょっとこの行脚が楽しくなってきた。メンバーの本音を聞き、立場や仕事や、何に問題意識を感じているのかを知ることは意義深い。小さな日本の一地域の中で、世界を感じる一瞬である。
私たちはたくさんの価値観と共に生きている。だからこそ、ゆるやかに方向性を探ることがETTの大切な使命だと思う。メンバーとの懇談の中で大きな示唆を得たような気持ちになった。これからのETTの行動目標ができたような気がした。

神津 カンナ

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