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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

銚子沖洋上風力発電所見学レポート
脱炭素社会に貢献する洋上風力発電へのチャレンジ

海上に風車を設置して海に吹く強い風をエネルギーに換える洋上風力発電は、海外で多く導入されてきましたが、四方を海に囲まれた日本でも脱炭素化への流れを追い風に導入拡大が図られつつあります。2021年7月8日、神津カンナ氏(ETT代表)は、沖合の洋上風力として、2013年に日本で初めて運転を開始した東京電力リニューアブルパワー(株)(以下、東電RP)の銚子沖洋上風力発電所を見学しました。



銚子沖にて、国内初の沖合い洋上風力発電の運転を開始

最初に、窓から海上の風車が見える銚子マリーナの会議室にて、再生可能エネルギー事業を専業とする東電RPの社員の方に概要説明を伺いました。日本では洋上風力発電の導入量は約20,000kWにとどまっていますが、中国のほか、主にヨーロッパには約1,700万kW設置され、世界的に拡大傾向が続いています。日本でも「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、2019年に再エネ海域利用法**が施行されて以来、洋上風力発電の導入を促進するしくみが整いつつあります。東アジアの海で風が一番強く吹くのは台湾海峡付近、日本は2番目位で、洋上風力発電に適した地形なのだそうです。
*CO2を吸収・除去することで排出量をプラスマイナスゼロにする意味。
**海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律。

東電RPは2003年からすでに洋上風力発電の研究を始めていたパイオニアです。2009年〜2016年の7年間は、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募事業を受託し、銚子沖に実証研究設備(現:銚子沖洋上風力発電所)を設置して「日本の厳しい自然環境に適用できる洋上風力発電技術の確立」を目的に実証研究を実施しました。銚子沖を選んだ理由は、関東地方でもとりわけ風が強く、遠浅の海域だからです。陸地から3.1km、水深12mの地点に設置した風車で発電した電気は、鉄筋コンクリート製の基礎から約4kmの海底送電ケーブルを通して陸の変電施設に送られ、配電線網を通して地域の電力に使われるしくみです。海底送電ケーブルは、船のアンカーに引っかかっても壊れないように、鉄のケーブルで2重巻きにされているそうです。耐用年数を伺うと、海底送電ケーブルは約20年、風車は約25年で設計されているとのことです。さらに実証研究を始める際には、風況(風の状況)観測や環境影響調査などを行う観測タワーも、風車から285mの間隔を開けて海上に設置されました。

実証研究の成果としては①強風、高波に対する基礎と風車の安全性を実証:2013年の台風26号直撃時に9.5mの高波を観測したが(設計波高10.5m)、基礎に取り付けたセンサーにて安全を確認、②塩害に対する風車の耐久性を実証:精密機器は密閉度を高め、風車の空気の取り入れ口に塩害除去フィルターを設置するなどしてサビやトラブルが無いことを確認、③海生生物や鳥類などへの影響と調査:鳥類が風車を避けて飛行している状況をレーダー調査で確認しました。また、魚類の群れにも変化が無い状況を確認し、銚子市漁業協同組合の方々にもご理解をいただいたとのことです。これらの成果の結果、2019年から商用運転を開始し、現在に至っています。

巨大な洋上風車1基で約2,000世帯分の電気をまかなう

次に船に乗り、デッキに出て風車を見学しました。海面からブレード(羽根)の先端までは約126m(30階建てビルと同じ位の高さ)、さらにローター(回転翼)の直径は92m(小さい野球場と同じ位の規模)があり、近づくにつれ、大迫力の大きさに圧倒されます。真下まで行くと「ピー、ピー、ピー」という船への警告音(霧の予報が出ている時に注意を促す霧笛)が聞こえました。風は吹いているものの海は凪ぎで、3枚のブレードがゆっくり回っています。ブレードは2枚だと高速回転で振動や騒音が起きやすいため、現在は3枚が主流です。風力発電特有のブーンという風切り音は500m離れると聞こえなくなるそうですが、真下でも聞こえませんでした。風速が25mを超えるとどの風車も自動停止しますが、こちらの風車も年に1回位は大きな台風により自動制御が働くとのことです。基礎には作業員の方が上り下りするためのハシゴが設置されており、基礎と海底送電ケーブルとの接合部は数多くのボルトで強固に止められている様子も見えました。実証期間中に台風で接合部の海底送電ケーブルが損傷したため、50年に一度の台風でも振動でネジがゆるんで外れない設計に改良し、毎年点検しているそうです。社員の方が「原因を究明するまで苦しい時期を過ごしたものの、結果、より安全性を向上させることができました」と説明してくださいました。次に、風速計や鳥類レーダーなどを付けた観測タワーへと近づくと、高さが100mもあるため、こちらも見上げると首が痛くなる程の大きさを実感しました。


■設備概要 


陸に戻り、変電施設の中を案内していただきました。奥には風車の状況が確認できるモニターが設置され、同じ設備が銚子市のサテライトオフィスと東京新橋の本店にもあるそうです。モニターを見ると風速4.1mと表示され、「風速3.5mから発電できるので今はギリギリ発電できている状況」と教えていただきました。風力発電は風が吹かないと発電できないため、設備利用率は陸上で20%、洋上で30%とされています。こちらの風車(2,400kW) の年間発電量は約600万〜700万kWhです。発電した電気は海底送電ケーブル(22kV)で変電施設に送って6,000Vまで下げ、銚子市の配電線網を通して地域に供給し、約2,000世帯分の電力をまかなっているとのことでした。

「着床式」から「浮体式」へ、新たな実証研究もスタート

再び会議室に戻り、補足説明や質疑応答の時間を設けていただきました。洋上風力発電の形式には2種類あり、現在普及しているのは水深0〜50m程度の沖合に設置して風車の基礎を海底地盤に固定する「着床式」です。一方、中が空洞で浮力で風車を浮かせる「浮体式」は水深50〜200m程度の沖合に設置できるため国内外で開発が期待されており、日本でも福島沖など3地点で実証プロジェクトが進められています。日本の周囲は水深が深いため「浮体式」のほうがポテンシャルはありますが、現状では建設コストの高さが課題となっています。また「浮体式」の5型式にはそれぞれに一長一短があります。東電RPでは2003年から浮体式の研究を始め、2019年から本格的な実証研究を行っています。2020年〜2021年度のNEDO委託研究ではシンプルな構造の「スパー式」を採用しているほか、デンマーク・ノルウェーで実施されている「テトラ・スパー式実証プロジェクト」にも参加し、将来は複数の浮体技術を地点に応じて使い分けることを目指しています。


■浮体式洋上風力発電 


日本では2019年から、国が洋上風力発電の促進区域を指定→公募による事業者を選定→30年間の占用を許可→事業開始というプロセスをつくり、「洋上風力発電を2030年までに約1,000万kW、2040年までに浮体式も含めて約3,000万〜4,500万kW」とする導入目標が示されました。東電RP は2020年に、欧州洋上風力に実績のあるオーステッド社と銚子洋上ウインドファーム(株)を設立し、2021年5月に浮体式実証研究プロジェクトへの公募に入札しました。銚子沖実証事業での経験を元に、大規模ウインドファーム(集合型風力発電所)の建設を計画しています。また同時に、秋田県男鹿半島北部の海域においても住友商事などとの共同開発で公募に挑戦しています。「弊社では2030年までに、国内外で600〜700万kW程度の再生可能エネルギーの新規開発を目標としています。2050年カーボンニュートラル実現に資する取り組みの一つとして、大きなチャレンジではあるが進めていきたい」と、最後に社員の方が今後のビジョンについて話されました。NEDOの試算によると、日本の洋上風力発電は着床式が2億kW、浮体式が10億kW、合わせて12億kWものポテンシャルがあるそうです。大きな可能性を持つ大きな洋上風力発電を間近で見学し、さらに未来に向けての大きな計画も伺い、脱炭素化への果敢でダイナミックなチャレンジを知る機会を得た一日となりました。


対談を終えて

日本は四方を海に囲まれた島国だが、洋上風力発電はなかなか進まない。日本はヨーロッパのように海が遠浅ではないとか、偏西風が吹かないとか、欧米と日本では漁業権に法的な違いがあるとか、あれこれネガティブなことは知識として得るが、だから駄目なのだと言っていられないのが、今の深刻な地球温暖化の問題である。どのように再生可能エネルギーの比率を高めていくかは世界にとって喫緊の課題だ。しかしもちろんこれは簡単なことではない。全てのものがエネルギーを土台にして成り立っている社会の、その土台のありようを変えるのは容易なことではない。しかも決して私たちは変えるまでの時間をふんだんに与えられているわけではないのだ。急いで舵を切らねばならない。私は、その切り札だと言われ、日本でのポテンシャルの高さが分かってきて脚光を浴びている洋上風力のことを座学で学び、実際に船に乗って、銚子沖で2019年から商用運転を開始した洋上風力の実物を見た。課題はもちろんまだたくさんある。しかし、変化は「しようとして」「させようとして」遂げられるものではない。ふっと、そうなるのである。けれども忘れてならないのは、ゆったりとした、しかし確かな方向転換だ。急ハンドルや急ブレーキは、やはり大けがを生む。憎しみも生む。しかし、たとえ急がなくても、変えるという明確な方向性を示さなければ、コロナ禍の中での緊急事態宣言と同じで、人々は厭きてしまい、なれてしまい、何をすべきか見失ってしまう。海の上でゆったりと回る風車を見ながら、このリズムだと感じた。たくさんの叡智と部品を内在させながら、どこ吹く風と涼しげに回るブレード。この風車のリズムこそが今、私たちの方向転換に求められているのかもしれない。

神津 カンナ

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