私はこう思う!

INDEX

水素社会の実現に向けて

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

僕が住んでいる山梨県は、水素利用の研究開発、実証試験の先進県である。少なくとも県ではそう自負しており、県内に蓄積された研究実績や技術シーズを活用し、「世界に先駆けて水素社会を実現するモデル都市の形成を目指す」と意欲的だ。

山梨大学の燃料電池ナノ材料研究センターは、世界トップレベルの研究設備だし、甲府市米倉山には水素供給利用技術協会が国内唯一の高圧水素試験の研究設備を整備し、水素ステーションの実証実験を推進している。さらに米倉山で製造したグリーン水素を、県内の工場や商業施設へ輸送し、ボイラーや燃料電池で利用するなど、サプライチェーンの構築に向けた社会実証も始まっている。米倉山の「ゆめソーラー館やまなし」では、燃料電池を利用した水素電力貯蔵の実証試験も行われている。また県と民間企業8社が共同で、グリーン水素によるエネルギー需要転換と水素製造技術の開発を推進するプロジェクトも展開しているし、福島県、東京都とは、水素利用のモデル構築や利用促進の合意書を交わし、連携して水素利用と技術開発の推進に取り組んでいる。

カーボンニュートラルは今や世界の最大関心事で、水素利用はその重要なキーと位置付けられている。日本の水素技術は世界で高水準にあるとされ、2017年には世界で初めて「水素基本戦略」で国の水素利用の方針を示した。その後海外でも水素への関心が急速に高まっており、欧州もアメリカも中国も製造、供給、産業育成で積極姿勢を打ち出している。そこで日本は今年「水素基本戦略」を改訂する。水素利用の拡大に向けた制度設計の具体化である。野心的な導入目標を掲げ、戦略から具体的な戦術へと展開することが求められる。その核となるのが水素産業戦略の策定と戦術展開だろう。生産(グリーン水素の生成)、輸送(サプライチェーンの構築)、利用(発電、モビリティ、産業)というそれぞれに課題がある3要素を、同時進行で推進する必要がある。水素社会実現のトップランナーとなれるかどうか、正念場を迎えたと思う。

(2023年6月)

ページトップへ