私はこう思う!

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造る・使う・壊す』をトータルで検討 

五十嵐有美子氏 yumiko igarashi
(株)ティ・アール建築アトリエ/一級建築士

建物を建てる時に建て主から「坪いくらでできるか?」とよく聞かれるが、壊すのにいくらかかるかは聞かれない。解体費は建物の構造や用途によって異なるが安くても木造で坪3~5万円位からであるが発がん性の材料アスベスト等が入っていると一気に数10倍以上に跳ね上がる。最近は家庭ゴミの分別以上に材料別に細かい分別作業が必要なため、年々壊すのに費用がかかっている。また、使う時の省エネや断熱性能等の初期投資とランニングコストの検討も必須だ。そのため、これからは建物を造る・使う・壊すをトータルで検討しなければならないと思っている。

このことはエネルギー施設を検討する時も同様であると思う。脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーをはじめ、原子力、水素、エネルギーミックスなど、様々な取り組みが見られるが、造る時優先で進められているのではないだろうか。

例えば、国内各地で大量の太陽光パネルが設置されているが、耐用年数30年で廃棄となる壊すコストや再エネ賦課金は検討されていただろうか。また、いわき沖に設置された浮体式洋上風力発電所は世界初と言われていたが、採算が取れないとのことで、撤去された。そして、原子力発電では稼働時に排出され続ける高レベル放射性廃棄物の最終処分場が調査開始の段階、また廃炉への方策も手探り状態のまま、再稼働や新設への動きが見られる。これらは使うこと・壊すことを考えずに造ってしまった、または造ってしまおうとする例ではないかと思えてならない。

そんな時、先日の毎日新聞に米国から廃炉ビジネスの申し入れがあったことが掲載されていた。米国では核のゴミを廃棄物でなく、有益な材料として低レベル放射能性廃棄物の受け入れを進め、ビジネスにしようというものらしい。原子力発電所1基当たりの廃炉費用は500億円程度とも書かれており、莫大な費用負担が発生し続けることになる。

後世に負の遺産を残さないよう、安易に造ることだけ考えるのでなく、効率よく使い、壊すまでトータルで検討を重ねた上で最良の選択をすることが望ましいと思う。

(2022年1月)

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