私はこう思う!

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芦野英子氏 eiko ashino
エッセイスト

処理水について

この2023年10月20・21日の2日間、私は福島第一原子力発電所に視察・研修に出かけてきた。
駐車場には大型バスが何台も入っていた。中国からの非難を受けて、日本中でも関心の度合いが深まったのだろうと思う。
三菱重工やパナソニックの社員たち数十人に混じって日本原燃の地域委員の一人として私の集団は10名程度で参加した。
映像を見ながらまず事故当時の様子を理解することから始まった。
次いでALPS処理水(多角種除去設備等処理水)の海洋放出に係る放射線環境影響についての説明を受けた。
基本方針に基づいて人、および環境への影響を評価(2021年11月)、その後国際原子力機関(IAEA)などからの意見も踏まえて2022年4月に公表、そして海洋放出にいたる前(2022年11月)に公表した。そして再度計測し、線量限度(人が受ける年間1ミリシーベルト)や海洋放出における線量拘束値(年間0.05ミリシーベルト)、またICRP(国際放射線防護委員会)が提唱する生物種ごとに定められた基準値を大幅に下回る結果が出て、人および環境への影響は極めて小さい結果が得られた。
私たちが歯のエックス線撮影1回に受ける放射線は0.01ミリシーベルト程度であることを参考にしたい。

しかし発電所の敷地内の処理水の入ったタンクは1,000以上もあり広い面積を占めている。処理水を極限まで線量除去し、海洋放出の際にはさらに海水でうすめて放出する。それまでに30年を要するという。私はこの10月4日で87歳になったので当然の事ながら見届けることができない。
しかしながら日本は正直で律儀で優秀な国だと思う。アメリカのスリーマイルはどうなったか、ソビエト時代のロシアはチェルノブイリを丸ごとコンクリートで埋めた。では地下はどうなるのだろう。いろいろ考えてしまう。この度の処理水に関しては理解し安堵した私である。



廃炉に向けての現場

処理水についての研修の次に廃炉に向けての現状も見てまわった。
4機ある全ては冷温停止状態を継続して圧力容器温度や格納容器温度をはじめとしたプラントパラメーターは24時間常に監視を継続している。1号機は上1/3が鉄骨がむき出しになっており2020年から大型カバーで覆われている。雨水などが流れこまないように措置をされ、2号機は南側に構台が鉄骨で組み立てられ、3号機については燃料棒が2021年に取り出され内部を遮へいした。機体の上にはドーム型の屋根のある燃料取り扱い設備、取り出した燃料体を移動させるクレーンが取り付けてある。また4号機は2014年に燃料の取り出しを完了しカバーで覆ってある。
しかし1号機は事故直後、水が全くなくなってしまったために原子炉容器がむき出しになり燃料デブリが下に残ったままになっている。もちろん人は近づけない。各機も共々ロボットアームで作業している。
建屋内の燃料デブリを安定的に冷却するために格納容器内への循環注水を継続しているので、これが汚染水となって溜まり始める。
多角種除去設備(ALPS)を通して「トリチウム」を除く62核種の大部分を除去したのちに貯蔵タンクに納める。処理水の所で加筆しなければならないのは、このトリチウムのことだ。
トリチウムは弱い放射線を出し、水のかたちで存在し身のまわりに広く存在している。
トリチウムは他の放射性物質と比べて人体への影響は低いと言われている。

いまだ人間が触れることのできない4機の廃炉完了までには長い年月がかかるだろう。
若い人が関心をもって秀れた技術者が多く育つ事を心から希う。 正しい知識と認識を持って風評にまどわされない自分でいたいと思う。

(2023年11月)

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