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空のカーボンニュートラル

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

航空業界も脱炭素化への対応に直面している。航空機の運航でいかにCO2を出さないか。キーは燃料だ。航空燃料には、航空用ジェット燃料と航空用ガソリンがある。いずれも石油系の燃料である。普段私たちが乗るジェット旅客機のジェット燃料は、灯油から精製されるケロシンだ。プロペラ小型機などのピストン・エンジンで使われる航空ガソリンは、軽揮発油を精製したもの。そして航空機から排出されるCO2のほとんどが、ジェット燃料由来なのだ。そこで欧州では、旅客機の旅への批判の声もあるほど。

21世紀になって、脱炭素化の高まりとともに、原油価格の暴騰という背景もあって、航空業界は本格的に代替燃料の実用化に取り組んできた。持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれるもので、その主役はバイオ燃料だ。原料にはナンヨウアブラギリ、藻類、カメリナなどの植物や、木質バイオマス、食用廃棄油、農業廃棄物などが、既に使われたり使用を検討されたりしている。

エンジンの1発だけをバイオ燃料で駆動する実験や、50%をバイオ燃料にした飛行試験などを、世界のエアライン各社は続けてきた。現在では、全エンジンの燃料を100%バイオ燃料にして、定期便の一部を運航する会社もある。日本でも具体的な動きが始まっている。今年3月に、ANA、JALに加えて、燃料製造企業や食品関連企業なども参加して、SAF原料の確保や供給システムの構築を進める団体も設立された。しかし原料の確保は国際競争になるし、コスト、製造と供給網、空港での給油システムなど、普及へのハードルは高い。航空ガソリンの代替には、燃料電池(FC)や電動も考えられている。今年1月には、英国のロールス・ロイス社が開発した全電動航空機が飛行に成功し、さらにプロペラ機の世界速度記録を樹立したというニュースもあった。しかし技術開発に加え、コスト、実用性、インフラの整備と課題は多い。空のカーボンニュートラルへの道は険しい。

SAFが世界中に普及し、私たちが後ろめたい思いを抱かずに、ジェット旅客機で空の旅を楽しめる日が、一日も早く来ることを期待したい。

(2022年6月)

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