私はこう思う!

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タンカーのおはなし 

金田 武司氏 takeshi kaneda
(株)ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長

ヨーロッパで風が吹かないとロシアのガス屋が儲かる様である。

どうもヨーロッパで風が吹かなくなったらしい。ヨーロッパ各国の風況を調べると例年秋から冬にかけて吹いてくれるはずの風が吹かなくなり、風力発電に頼ったヨーロッパ各国で電気が不足した。ヨーロッパ各国では冬は風力、夏は太陽光で沢山発電するため年間を通じて比較的安定した再生可能エネルギーを手にすることが出来た。しかし、昨年秋から目を覆うばかりの電力不足、ガス不足に見舞われた。

風が吹かないとなぜガスが不足するかというと、ヨーロッパ各国は再生可能エネルギーの補完を安価でCO2排出の少ないロシアの天然ガスで補うためである。石炭をやめ、原子力も止めた国はそうするしかない。ヨーロッパ各国が一斉にもっとガスをよこせという事態に陥った。特にひどいのがドイツとイタリアだ。ドイツは石油、天然ガスそして石炭までもロシアに最も依存している。イタリアも天然ガス、石炭共にロシアに最も依存している。日本にとっては忘れられないドイツ、イタリアが特に危機的状況に瀕している。なぜか第二次世界大戦を彷彿とさせる。

ヨーロッパ各国のエネルギー危機が深刻になるにつけ、昨年末ロシアはウクライナ周辺を覆うように兵を進め、侵攻の準備をはじめた。ガス不足とウクライナ侵攻は一体なんの因果関係があるのだろうか。ロシアはガスをドイツ、イタリアおよびヨーロッパ各国に供給している。この幹線がウクライナを通過している。ちなみに、ドイツ(世界第二位のエネルギー輸入国、第一位は日本)にはロシアからの天然ガスパイプラインが4本も来ている。そのうち2本は他国を通らずロシアからバルト海を通じた「直結線」である(実際はこのパイプラインのうち1本は稼働出来ていない)。ドイツはロシアのガスが無ければ生きていけない国となった。ウクライナはロシアからのヨーロッパ各国へのガス供給窓口となっているだけでなく、地政学的にヨーロッパ各国へのガス供給の支配権を有するのがウクライナだと言える。

ロシアもウクライナを侵攻する際にはこのパイプラインを壊さないように気をつけないといけない。なぜなら、ヨーロッパ各国からロシアに支払われるお金の流れはこのガス供給によるものだからである。お代をヨーロッパ各国から頂かないと戦費が捻出できない。ロシアの強気も戦争の資金源もこのガス供給が元となっている。

西欧諸国がロシアの銀行に制裁を科した。ロシアの銀行に送金出来ないようにしてしまった。しかし、ヨーロッパ各国が購入するお代はどこかに支払われているはずである。それは「ガスプロム・バンク」というガス取引専用の銀行である。当然のことながらこの銀行は制裁対象に出来ない。

巨額の資金は相変わらずヨーロッパ各国からロシアに今でも流れており、当面止まらない。ちなみに、ヨーロッパ各国が大量かつ高額でガスを購入するためにロシア国営ガス会社「ガスプロム」は空前の売り上げを記録している。2020年6兆ルーブルから2021年は10兆ルーブル、利益も過去最高。今年はさらに飛躍的な売り上げを見込む。1ルーブル2.4円(2022年6月現在)という為替レートを考えれば如何に巨額であるかが分かる。

天然ガスだけはロシア依存から抜けられないため戦争が長引くかも知れないという予想は正しいかも知れない。戦争を終結させ、ヨーロッパ各国を安定させるために各国が原子力を推進するという方針をわたしは正しいと思っている。

(2022年6月)

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