私はこう思う!

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流域を守るために

土井 裕子氏 yuuko doi
NPO法人五ヶ瀬川流域ネットワーク理事長

近年、水害が激甚化している。昨年の東日本台風19号では、千曲川や阿武隈川が氾濫して大きな被害が出た。国土交通省に勤める友人は「二級河川や県管理区間の支川が氾濫したり破堤するならまだ許せるが、一級河川の千曲川や阿武隈川のあの氾濫は、今までの自分達の河川整備の努力が何だったのだろうと許せない気持ちで一杯です」と言う。長年、河川整備に携わってきた河川技術者にそう言わせるほどの気候変動が起こっているのだ。

3.11の東日本地震の津波で高台に住む安全性が言われ始めたが、今年の台風10号で、宮崎県の椎葉村で土砂災害が発生して4名が行方不明となり、いまだ1名しか見つかっていない。椎葉村は宮崎県でも秘境と言われる山奥の村だ。今は想定外の所で災害が起きる。

私は、川に関わって30年以上になるが、最近は流域全体での環境保全と食料、エネルギー自給自足を考えている。上流域の町村は過疎化高齢化で、棚田に水を運ぶ農業用水の維持管理も難しくなっている。この用水を使って発電をし、FITで100kW売れば、1人の雇用を確保できるのであるが、系統に繋いでくれるのは50kWまでで、採算に乗らない。一方、棚田での農業や山奥での林業はもはや業と言えないほど採算に乗っていない。これは、下流の延岡市で、平場の広い農地の集まっている場所でさえも、米は作るより買った方が安いという現状である。しかし、どんな時代が来ようが、食料とエネルギーを自分達の手で作る知恵と仕組みを残していれば、生きては行ける。

今、日本の大学では地域創生学科が大流行。この若い才能を活かす場所として若い人材が消滅して行っている流域に新しい雇用を創り、流域経営のロジスティック(兵站)を担って欲しいと思っている。そして今、それに取り組まないと、日本の美しい山河が崩壊して行ってしまいそうな気がしているからでもある。

(2020年10月)

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