私はこう思う!

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5.10米ガソリン危機に想う

隈部 まち子氏 machiko kumabe
ヒューマン・エコノミスト

大学教授は継続中だが、永年の地域活動であるヒューマン・エコノミストの視点で考えたい。

米最大手のコロニアル・パイプラインがサイバー攻撃を受け、5月10日停止したことは承知の通りだ。南部とニューヨーク市を含む東海岸のガソリン、ディーゼル、ジェット燃料の45%を供給している。メディアは買い占めぬよう冷静を呼びかけた。一方市民はガソリンを買い占めろと、メディアを上回る勢いで絶叫した。「全車満タンにしろ。芝刈り機も満タンに!」「ガソリン缶に買い貯めろ。マンションなら隣人のガレージに置かせてもらえ」無理もない、5州では全輸送燃料の70%がストップしたのだ。翌朝には各地のガソリンスタンドで長蛇の列ができた。ある女性は、「4時起きで来たけど遅かったわ。70年代の石油ショックのよう」価格はすぐさま1ガロン3ドルまで高騰した。

供給網外のフロリダ州でも、買い占めにより翌日に非常事態宣言が発令された。フロリダ州の燃料は、タンカーで海上供給されている。高級住宅地パーム・ビーチの男性は、「私はこの時期自宅のプールで過ごしていて、車には乗らんのだが、何のためにこうして行列しているやら」と苦笑する。

後日専門家は市民の買い占めが、ガソリン危機を誘発し供給不足を招いたと結論づけた。しかし、市民のパニック買いを非難できるだろうか。同社は数日で復旧と言ったが、実際には手動で再開され、市民に供給されるには、もう数日かかったのだ。買わなければ、買えなくなったのである。車は米市民の命の綱だ。市民は不確実の中で生存するための最善策をとったのではないか。

やがてメディアの関心は、サイバー攻撃と仮想通貨に発展していった。しかし、市民のパニック買いの経済行動は命を守るための必然であったのではないか、と私は想う。  

(2021年6月)

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