私はこう思う!

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新しい規制等に関する問いかけが必要では?

中上 英俊氏 hidetoshi nakagami
(株)住環境計画研究所 代表取締役会長

住宅の保温性能義務化が施行されようとしている。また東京都では新築着工住宅への太陽光発電システムの設置義務付けが住宅供給事業者を対象に進められようとしている。温暖化対策を強力に進めていくうえで確かに有効な施策であるが議論の進め方にやや強引なところがあるのではと危惧している。

住宅の省エネ基準の義務化については所管の国土交通省の審議会において数年間にわたって審議が積み重ねられてきた。私もこの議論に参加する機会を得たがここでは義務化までに至らず、義務化に至る試行錯誤の時間を担保してしかるべき時期に義務化に至るという結論であった。私自身としては住宅の保温構造化を強化することには大賛成であった。ただ議論があまりに温暖化対策やエネルギー対策の視点に特化していたことがやや不満であった。というのは住宅としての住まい手にとっての基本的な居住環境の在り方として、しかるべき保温構造水準を担保するという住宅本来の視点からの議論がほとんどなかったことである。良好な保温構造化が図られた住宅はどちらかというと富裕層の住宅に偏在し、弱者である低所得階層の人々にとっては無縁なものといった様相が見られていたのではないだろうか。弱者の階層の人々にとっては性能の低い住宅への居住を強いられ、当然冬場にはより多額の暖房用エネルギー負担を強いられることになる。このような差をなくすためにも住宅の一定の保温構造の確保は必須の住宅の性能条件だと思う。

さらにすべての住宅建設事業者の方々がこの基準を順守するためには設計段階から施工段階まで的確な対応が求められる。そのための準備期間として一定期間をおいて規制に至るというのが審議会での結論であったように思う。断熱材が我が国に導入された当初、施工に慣れないための不良工事により壁体内部結露等により大きな被害が続出したことが思い出される。

また住宅の暖房用エネルギー消費量は家庭全体のエネルギー消費量の20%強である。欧州先進諸国では60%を超える水準だ。したがって欧州では住宅の保温構造化による省エネ効果は極めて大きい。もちろんだからといって保温構造化の規制を否定するわけではない。残りの80%のエネルギー用途での省エネルギー対策についてもっともっと議論があっていいと思う。現在の温暖化問題に対する社会的な風潮は拙速に過ぎているのではないかと感じている。

(2022年10月)

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