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パンデミックのあとに

薗田 潤子氏 jyunko sonoda
フリーアナウンサー

ラジオのインタビュー番組を31年続けている。年末には、地元シンクタンクの方をお招きし1年を振り返る。イギリスのEU離脱、香港の国家安全維持法、アメリカ大統領選挙、安倍総理の退陣と大きな出来事が目白押しだが、やはり新型コロナの話が中心となった。印象に残ったのが、パンデミックの歴史だ。人類は、何度もパンデミックを生き延びた。6世紀から8世紀にかけて、東ローマ帝国を中心に流行したペスト。中国雲南省あたりに存在していた菌が、シルクロードを経由してヨーロッパに持ち込まれた。当時の人口の半分が死亡し、帝国衰退の一因となった。古代ローマの共同浴場は感染源と考えられ、入浴文化は消滅した。

さらにペストは、14世紀にもヨーロッパでパンデミックを引き起こす。1253年モンゴル軍が中国雲南省に侵攻し、ペストと遭遇。モンゴル軍と共に世界各地に広がり、ヨーロッパの全人口の1/3が亡くなった。ところが人口の1/3を失ったことが、ヨーロッパに近代化をもたらすきっかけとなる。人口の激減で農民の賃金が上昇し、荘園制度が成り立たなくなった。上下水道の整備や都市改良がペストの抑制に大きな成果をあげ、科学の地位が向上。一方ペストに無力だった宗教者の権威は大きく失墜した。

ペスト後のヨーロッパでは、技術革新が巻き起こる。本を書き写す職人の賃金上昇が活版印刷機をもたらし、少ない兵士で戦争を可能にするため火薬が開発され、少ない船員で大型船の航海を可能にする羅針盤が発明された。そして、これらの技術革新が、18世紀イギリスで始まる産業革命へとつながっていく。

産業革命時代に蔓延したコレラは、労働者の環境改善の重要性と労働者と資本家の共存共栄という考え方を提示した。パンデミックは、人々の価値観を変え、社会構造を変え、技術革新をもたらす。私たちは今、そんな転換点に立たされているのだろう。コロナ後の世界がどんな世界になるのか、心の準備をしておきたいと思う。

(2021年1月)

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