私はこう思う!

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極論と無関心を超えて、一緒に考えたい

井内 千穂氏 chiho iuchi
フリージャーナリスト

4年前に英字新聞社を辞めた頃、ある音楽家と原子力発電の話になった。原子力に反対か賛成かではなく、放射性廃棄物の処分をどうすればいいと思うか尋ねてみると、彼は言った。
「そんなことは僕が考えることじゃない」
音楽「専門」ライターを目指すのをやめたきっかけの一つである。

かく言う私も東日本大震災まで「そんなこと」は考えたこともない。福島第一原子力発電所事故は衝撃だった。もう一つ衝撃だったのは、その後の国会前反原発デモだ。人々が「原発は要らない」と叫んでいる。今まで原子力発電の電気を使っていたんじゃないのか?では電気をどうするのか。結局、私はデモに参加しなかった。そして、ようやく考え始めた。

原子力発電の話を聞きに行くと、推進派の集会では、まるで福島第一原子力発電所事故などなかったかのように「再稼働」で盛り上がる。逆に、反対派の論者は、あくまでも「原発ゼロ」。それまでは放射性廃棄物の処分もダメだと。相容れない両極に頭を抱える。

もっと現地を見てみようと、何度も福島を訪ね、廃炉現場にも入った。瑞浪や幌延の地下に潜り、六ヶ所村にも浜岡原子力発電所にも行った。たいていは中高生のスタディツアーの同行取材で、頭の柔らかい若者たちと一緒に学んでいる格好だ。そんなご縁ができたのは有り難い。ご縁のつながりで昨夏ETTにお誘いいただいた。

ETTの見学会で横須賀石炭火力発電所の建設現場を訪ね、エネルギー問題全体への自分の理解が全然足りないことを痛感する。技術的な話だけでなく、歴史、経済、国際情勢、環境問題などが絡まり合った“エネルギー連立多項方程式”なのだ。コロナ禍で話はさらに複雑になる。地球温暖化も待ったなし。日本各地が感染拡大と集中豪雨に見舞われ、日々のニュースに心が痛む。

そんな7月の初め、「石炭火力100基 休廃止」という新聞の見出しに驚いた。経産省の方針だという。いつの間に決まったのか。7月下旬には「六ヶ所村の再処理工場が審査に合格」のニュースが流れた。2つの話のタイミングの近さは偶然なのか。わからない。「蚊帳の外」だから、人々は不信感から極論に走るか、無力感から無関心に陥るのではなかろうか。

ETTはEnergy Think Togetherの頭文字。包容力を感じる。「そんなことは僕が考えることじゃない」と言った音楽家氏や、反原発デモに同調した友人たちとも、エネルギーについて一緒に考えたい。そのための知恵と勇気が欲しい。ETT30年の歴史と皆様の経験に学びたいと願っている。

(2020年8月)

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