私はこう思う!

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天野IAEA事務局長の講演を聞いて

碧海 酉癸氏 yuki aomi
消費生活アドバイザー/ウイメンズ・エナジー・ネットワーク会員

先日、公益財団法人科学技術国際交流センター(JISTEC)の拡大版交流サロンというご案内をいただいて参加した。「原子力の平和利用とMillennium Development Goal」と題した天野之弥氏の講演を伺う貴重な機会である。天野氏は2009年、日本人として初のIAEA事務局長に就任、今年再任されて更に4年間の活躍が期待されていることは皆さんご承知のことと思う。冒頭の発言「最近はIAEAという略称の認知度が高まりました」。

いうまでもなく、外国語にもご堪能な国際人なので、こちらは少々身構えたのだが、極めて具体的で分かりやすく、原子力の平和利用の実情を語られた。発展途上国におけるガン治療にも当然放射線は利用されるが、末期の患者が多いため、病院に入ると死ぬと誤解している住民の話、アフリカ諸国におけるツェツェバエの撲滅に沖縄のウリミバエ根絶の技術が発展展開されている話、塩分などを含まず飲料に適した水資源を放射線利用によって見つけ出し、渇水に悩む国々を助ける話、ペルーなどの高地でしか育たない有用な植物を、放射線照射で変異を可能にし、低地の農民の耕作技術にあった作物として普及させる話などなど。天野氏の講演の核心は、原子力の平和利用の一環としての放射線の活用技術を、IAEAがいかに重視して展開してきているかという説明だった。

「フクシマ」に対するIAEAの対応を知ろうと、張り切って参加したと思われる人々を前に、天野氏は、さりげない表現で、「原子力発電によるエネルギー利用だけが参加152カ国の視野にあるわけではないんですよ」と諭されているような気がした。

20年に及ぶ仲間たちとの活動で、あるいはETTの事業で、私自身も放射線利用をより正確に知ろうという広報活動に力を入れてきたつもりだ。日本の社会は、あるいはマスコミがと名指してもよいが、さまざまな暮らしの困難に立ち向かう人々に力を貸すための原子力利用という側面を無視し過ぎでは、と案じるからである。

(2013 年10 月末)

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