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電力小売り自由化で得をするのはだれ

松田 英三氏 eizo matsuda
パルス経済研究会代表

電力小売りが完全自由化される4月が近づくにつれ、メディアには「自由化で得をするのは高所得層ばかり」という批判的な論評が増えてきた。新規参入事業者が示した料金プランが、電気をたっぷり使うお金持ちを大幅割引で優遇する一方、使用量の少ない家庭向けは今と代わり映えしない内容にとどめ、相手にしない姿勢を明確にしているからだ。

既存電力会社の規制料金には、三段階料金が適用されている。東京電力で最も一般的な従量電灯Bは、月間使用量120キロワット時までが1kW時あたり約19円、120~300kW時が約26円、300kw時以上が約30円で、買う量が多いほど単価が下がる普通の商品とは逆に、多く使うほど高くなっている。特に一段目の安さは特筆に値する。

この制度は第二次石油危機後の1974年、省エネルギー政策として導入された。電気の大量消費時の料金を割高にして節電を図った。そこに新規事業者の商機がある。新規電力が標的とする大口の家庭は、規制料金が高い分だけ値下げの余地が大きく、しかも電気を使うほど単価は割安になる。ただ、皮肉なことに省エネ効果は失われる。

一方、既存の電力会社にとっても、大口の家庭は貴重な収益源だ。取引コストがかさむ割に単価が低い小口の家庭は、採算割れとも指摘される。大口を新規事業者に奪われ、小口ばかりが残った状態で、料金規制が予定通り2020年に撤廃されたなら――。既存電力会社が三段階料金を廃止し、格安な一段目を一挙に値上げする事態も考えられる。

既存電力会社を敵視する一部のメディアは、小売り自由化を熱烈に支持してきた。三段階料金の存在すら知らず、既存電力会社を困らせることが低所得層にプラスをもたらすと思い込んでいたのだろう。今になって、値下げを享受できるのは大口だけと気付き、小口向けには「再生可能エネルギーの電気を選べるのが自由化の意義」などと言い始めている。

(2016年2月末)

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