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インフラ輸出競争と原子力

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

COP21で採択された「パリ協定」が昨年11月に発効し、続いてCOP22で「マラケシュ行動宣言」が発表されて、温暖化防止への国際的なルール作りに強い姿勢が示された。「パリ協定」の批准で出遅れた日本は、これからの温暖化対策の国際貢献で、積極的に存在感を示す必要がある。

政策的、財政的な貢献に加えて、期待したいのが科学技術による貢献だ。そこで注目しているのが、地球観測衛星によるデータの収集と分析である。人工衛星による地球観測は、いわば地球の健康診断、精密検査だが、日本の地球観測衛星は、1987年に打ち上げられた海洋観測衛星1号(MOS-1「もも」1号)に始まり、今年で30年を迎えている。これまでの衛星の観測結果は、地球の現況を知る有効なデータとして、各国の政府機関や科学者にも利用されている。

温暖化対策に直接貢献できるものとして、2009年から運用中の温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT「いぶき」)がある。「いぶき」は、宇宙から温室効果ガスの濃度分布を観測する衛星で、温室効果ガスの排出・吸収状況を観測でき、地球温暖化の状況を正確に把握することが期待される。温室効果ガスの濃度分布は地上の観測地点や航空機からも観測されているが、観測地点は348地点と数が少なく、地域的にも偏っている。「いぶき」は軌道上から地球表面のほぼ全域にわたって、温室効果ガス観測センサーで二酸化炭素やメタンの濃度分布を測定することができる。今後、各国の排出量や削減状況を、高い精度で把握することに威力を発揮するだろう。現在「いぶき」の任務を継承し、温室効果ガスの観測機能・精度を飛躍的に向上させた2号機(GOSAT-2)が開発中だ。

もうひとつ注目したいのが、2017年度中に打上げが予定されている、気候変動観測衛星(GCOM-C)だ。これは宇宙から地球の環境変動を長期間、グローバルに観測する、地球環境変動観測ミッション(GCOM)プロジェクトの一翼を担う衛星だ。GCOM-Cは搭載する多波長光学放射計というセンサーで、大気中に浮遊するエアロゾル(ちり)や雲、雪氷、植生、海洋プランクトンの分布などを、長期間にわたって観測する。気候変動の監視と将来予測、そしてメカニズムの解明が期待されている。これらの日の丸人工衛星が、温暖化防止への国際的な取り組みに、科学的なデータで貢献することを期待したい。

(2017年1月末)

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