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原子力の信頼性回復は現場からの情報発信

内山 洋司氏 youji uchiyama
筑波大学システム情報系教授/産学リエゾン共同研究センター長

政府のエネルギー政策を見ると、福島第一原子力発電所事故によって、これまでの「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」という3つの基本方針に新たに「エネルギー施設の安全確保」を加えている感がある。その優先順位も原子力の安全確保を第一に、電力制度改革による市場原理の活用、安定供給の確保の順で、地球温暖化への対応が薄らぎ始めている。原子力事故が社会に与えている影響の大きさを改めて感じる。

原子力発電が日本のエネルギー・セキュリティ、温暖化対策、経済性の面において優れた技術であることはいうまでもない。現在、停止中の軽水炉を再稼働すれば、中東に依存する天然ガスや石油の輸入量が削減でき、年間4兆円近い国富の流出も防げる。地球温暖化に対しても日本の積極的な削減目標を国際社会にアピールできる。また現在の電力供給力にしても、原子力発電が利用できれば、十分に確保できており、あえてコージェネレーションやLNG複合発電、あるいは再生可能エネルギー技術を導入していく必要はない。

しかし、原子力規制委員会の安全審査の基準は高く、許可が得られたとしても地元自治体から再稼働の合意を得ることは容易ではない。全てのプラントが再稼働するまでにはかなりの時間が予想される。その間、天然ガスや重油、また固定価格買取制度による再生可能エネルギーの普及拡大に依存していかざるを得ない。電気料金の値上げは避けられず、企業の国際競争力の低下や、消費者の消費意欲の減退につながる恐れがある。来年の4月からは消費税率も8%に引き上げられる。電気料金の値上げが、アベノミックスによる日本経済の発展に水を差す可能性がある。

打開策は、原子力発電の信頼性を取り戻すことだ。それには電力会社が原子力規制委員会の安全指針に対応するだけでなく、現場から生の安全情報を消費者に出すことが何よりも大切になる。原子力発電所の安全に対するメッセージを現場から積極的に自信をもって発信していただきたい。

(2013 年10 月末)

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