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拡がる放射線利用

内山 洋司氏 youji uchiyama
筑波大学名誉教授/(一社)日本エレクトロヒートセンター会長

放射線というと、目に見えないため、なんとなく不安や恐怖を感じる人が多い。しかし、放射線は私たちの生活に身近に存在しているだけでなく、様々な分野で利用されている。

内閣府の「放射線利用の経済規模調査(平成27年度)」によると、放射線は、工業、医療・医学、農業等の多くの分野で利用されており、経済規模では4兆3,678億円にまで成長している。その内訳は工業利用が51%、医療・医学利用が44%、農業利用が5%である。

経済規模は17年度の前回調査に比べて6.2%増加しており、主に医療・医学分野での増加である。エネルギーとして利用されている原子力発電所の経済規模は、前回調査では4兆7,410億円であったが、今回は原子力発電所の停止によって3,307億円にまで低下している。

主な用途は、工業分野では、加速器・診断用X線装置、医療放射線関連装置など設備・装置や注射針・真空採血管など放射線滅菌、それに放射線測定器・非破壊検査といった計測・検査、また農業分野では稲や花などの突然変異育種、ジャガイモ芽止めなど食品照射などに利用されている。中でも医療・医学分野では、画像診断、放射線治療、乳がん検査などのがん治療、それに医薬品の合成に放射線利用が拡がっている。利用が拡大していくためには、放射性物質の管理能力を高め、国民レベルで放射線の有用性とリスクが正しく理解される必要がある。

原子力発電も中性子線を利用する放射線利用の1つである。有用なエネルギーである電気を生産する一方で、放射性物質である使用済み燃料を如何に安全に管理できるかがが問われる。放射能がある程度のレベルに減衰するまでは、貯蔵施設で放射性物質を外部に漏洩させないよう安全に管理されねばならない。再処理は、使用済み燃料のリサイクルである。再処理によって発生するウランやプルトニウムは核燃料として再利用されるが、それ以外の白金族やレアメタルなども産業用材料に利用できないだろうか。さらに残りの高レベル放射性物質は、中低レベル放射性核種になるまでの間、熱供給、乾燥、殺菌などの用途に利用できないだろうか。原子力の開発が“トイレなきマンション”と言われないためには、負の部分を産業として発展させ、身近な利用の中で放射線のリスクが正しく理解される必要がある。

(2018年7月)

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