私はこう思う!

INDEX

 

北山 淑江氏 yoshie kitayama
新潟大学名誉教授(理学博士)

2015年10月16日ETT見学会で「とよたエコフルタウン」にある水素ステーションを初めて見ることができた。化学を専門としてきた私は天然ガスを原料とする化学プラントは何度か学生と一緒の工場見学で見てきたが、自動車燃料として実際使われている装置を見るのは初めてだった。天然ガスから生産した水素を化学反応させて化学製品にするプロセスはずいぶん昔から使われている。水素を電力に変える燃料電池の実用化は、1965年米国の宇宙船ジェミニ5号がゼネラルエレクトリック(GE)社製の燃料電池(固体高分子形)を積んで宇宙へ飛立ったのが最初といわれている。

新潟県は石油と天然ガスの産地である。新潟市近郊には天然ガスを採取する設備が田んぼの中や海岸に点在する。新潟県の昨年の天然ガス生産量は約21億6726万立方メートルで、国内産ガスの76.8%を占めている。新潟県内生産の天然ガスは輸入LNGに比べれば微々たる量にすぎないが、安定供給源として注目されている。新潟県内には天然ガスを利用した化学工場がいくつか設立されたが、時代の変遷とともに衣替えをしながら今でもその一部が稼働し続けている。県の統計によれば、県内産天然ガスの13%が化学工業用に使われているとのことである。化学製品の基幹物質の一つであるアンモニア合成には水素は不可欠である。いまではコストダウンのため外国で製造し、船で運んで来ているが、アンモニア合成に必要な水素は、水素ステーションと同じ化学反応で、天然ガスから製造していた。

この反応の歴史は古く、窒素と水素を原料とするアンモニア合成は、1911年、ドイツBASF社により工業化された。日本での生産開始は1922年となっている。この工程ではCO2が発生するが、化学工場では天然ガスからの炭素の排出はもったいないので利用する工程を組んでいる。先日見学した天然ガスから水素を製造する水素ステーションは、小さな化学工場といえる。しかし、製造工程で排出されるCO2への対策は未完成となっている。ちなみにメタンと水から水素を製造する場合、反応が100%進んだとしても水素1kgあたり約7.3kgのCO2が発生する。送電線の問題で買い取り不可能な再生可能エネルギー利用の水電解反応に置き換えられることになれば、CO2は発生しないので、望ましい姿となるはずである。

石油・天然ガスは燃やして熱源や動力源となることを連想することが多いが、これらが日常生活に必要な医薬品・建築材料・衣料品などの原料として重要な資源であることも、再認識してほしいと思う。

(2015年10月末)

ページトップへ