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インフラ輸出競争と原子力

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

中国が「原発強国」を宣言した。今年1月に初公表した原子力発電に関する白書の中で、2030年には国際原子力市場で相応のシェアを占め、「原発強国」の目標を達成すると宣言したものだ。

2004年に中国エネルギー事情調査に行き、秦山原子力発電所を視察した当時、稼働中の原発は9基だった。それから10余年、今年1月現在で稼働中は30基、建設中は24基という。爆増だ!技術力や運用面、人材面など、中国の原子力の実態を疑問視する指摘があるし、中国経済には先行き不安もあるものの、中国は世界市場の席巻を目指している。

原発と高速鉄道が、中国のインフラ(社会基盤)輸出戦略の両輪だという。インフラ輸出を成長戦略の柱とする安倍政権の方針と、真っ向から対峙しているわけだが、日本の場合、高速鉄道に比べて輸出の切実度は原発のほうが高い。日本の原子力産業は、大震災に伴う福島第一の事故後、苦難の時代が続いている。現状では国内での新規建設は見込めず、メーカーは輸出を通じて海外に活路を見出そうとしている。しかし高速鉄道での受注競争でも明らかになったように、中国は豊富な資金力、低価格、短い工期、そして外交力を駆使して、強引な受注戦略で攻勢に出てくる。

日本の原子力産業の海外展開のためには、国内での実績の蓄積が急務だ。まず再稼働の加速化が必要である。2月29日に送電トラブルで自動停止した高浜4号機を入れても、事故後の再稼働はやっと4基である。今後伊方3号機、玄海3、4号機の再稼働が続くことが期待されるが、原子力規制委員会の審査は停滞気味だ。運転40年超の再稼働も、やっと高浜1、2号機に「合格証」が出たが、規制委にはさらに迅速な審査を求めたい。

実績の蓄積、つまり技術の維持・継承、人材の確保、安全文化の再構築のためには、再稼働だけではなく、リプレースや新増設も必要だと思う。2030年のベストミックス目標で、原子力の比率を20~22%としているが、もし40年廃炉が相次ぎ、新増設もなければ、30年の比率は15%前後となり49年にはゼロになる計算だ。国には、今後の新増設の方針を明確に打ち出すことを求めたい。国の積極的な原子力戦略がなければ、インフラ輸出もおぼつかなくなってしまうだろう。

(2016年2月末)

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