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1万年に1回のカタストロフィ

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

1万年に1回程度起きる破滅的なリスクを、どうとらえるか。ゼロリスクに固執するか、あるいは理性的なリスク判断に委ねるか。

昨年12月13日に出された、広島高裁による伊方原発3号機の運転差し止め命令の仮処分の件だ。仮処分は、短期間で判断を下し即座に効力が生じる。これで伊方3号機は、定期検査後の運転再開が不可能になった。原子力発電所の訴訟に仮処分を適用するのは、慎重であるべきとの意見は従来からあった。その弊害が顕在化したとの指摘もある。仮処分で原発を止める司法判断は、高裁では初めてのことだ。

広島高裁が運転を認めなかった要点は、原子力規制委員会の火山の危険性に対する判断が不合理というものだ。火山の危険性を理由とする差し止め命令も、これが初めてだ。高裁が判断に当たって検討したのは、約9万年前に破局的噴火を起こした阿蘇山の火砕流が、約130キロ離れた伊方まで到達していたか否かだ。判断は「到達していないとはいえない」というもの。可能性がゼロではないという論拠だ。規制委の「火山影響評価ガイド(火山ガイド)」では、火砕流が到達する可能性が十分小さい場合に限って設置を認めている。地震の揺れや津波の高さとは異なり、火砕流の基準の数値化は難しく「十分小さい」という表現になっている。そこに恣意的な解釈による判断が下される陥穽(かんせい)がある。

火山列島の日本では、破局的な噴火がどこでいつ起きるかを、現在の火山学で科学的に予測することは不可能だが、1万年に1回程度の発生は想定されている。その1万年に1回のカタストロフィを、原発についてだけゼロリスクで考えるというのは、恣意的な論理の飛躍ではないだろうか。

規制委では火山ガイドについての考え方を整理する方向と聞くし、破局的噴火の可能性が高まった際の原子力発電所の停止判断基準の検討も進めている。火山噴火の特性もあって、恣意的な解釈の余地のない基準作りは難しいだろうが、司法判断が再稼働の障壁とならないような基準、運用の再検討を、規制委には期待したい。

(2018年2月末)

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