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石炭よ、どこへ行く

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト/ 航空評論家

石炭に逆風が強く吹いている。燃料炭、つまり火力発電に使用される石炭への逆風だ。地球温暖化を抑制するために温室効果ガス(特にCO2)を削減する標的として、石炭火力発電は集中攻撃を受けている感さえある。

昨年12月にポーランドのカトビツェで開かれたCOP24に先立って公表されたIPCCの特別報告書では、2050年前後にCO2の排出量を、実質的にゼロにする必要があると分析、再生可能エネルギーが全発電量に占める割合を約8割に高め、石炭火力はほぼゼロにする必要があるとしている。

日本はもともと石炭火力発電への依存度が高い。さらに東日本大震災後、原子力発電所の再稼働が進まないことなどから、石炭火力の割合は増えて現在約3割だ。先日、海外電力調査会の松井亮太氏に世界のエネルギー事情について興味深いお話を伺ったが、エネルギー分野での日本のCO2排出量は世界第5位、排出原単位(gCO2/kWh)が増えているのは、排出量上位ワースト10か国中で日本だけとのことだった。

それでは日本は石炭火力から撤退すべきなのか。そう簡単には行かない。エネルギー安全保障の観点から、選択肢としての石炭の活用はやはり必要だと思う。エネルギー資源を持たない日本は、発電用燃料を海外に頼っている。選択肢を狭めるのは危険だ。バーゲニングパワーは維持する必要があると思う。そこで求められるのが、石炭火力発電の技術基盤の維持と進歩だろう。日本の技術力を発揮し、世界のエネルギー問題への貢献が期待できる分野でもある(火力発電に依存する国は多い)。USC(超々臨界圧発電)や最先端のIGC(石炭ガス化複合発電)、さらにはCO2吸収・貯蔵など、日本がリードする高度な技術をさらに発展させることが求められる。

ところで、日本のエネルギー政策の柱は、省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力発電だ。それは地球温暖化防止のための3本柱でもある。このところ国の政策は、課題が次々に浮上してきているにもかかわらず、再生可能エネルギーに偏重している感が否めない(IPCCでも再生可能エネルギーへの期待値が大きい)。省エネや原子力の有用性が話題になることが、一時期に比べて極端に減っている。もう一度原点に戻って、この3本柱のバランスを踏まえたうえで、火力発電の今後も考えたいものだ。

(2019年1月末)

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