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北米ポートランドにみる省エネ・コンパクトシティ

五十嵐 有美子氏 yumiko igarashi
(株)ティ・アール建築アトリエ 取締役/一級建築士

昨年2018年7月にシアトルに住む娘のところへ行き、3週間ほど過ごした。シアトルは北米の西海岸に位置しており、海産物が豊富で美味しい魚が食べられるが、とにかく物価が高い。これは航空機ボーイング社をはじめ、三大企業立地(IT産業のマイクロソフト、コーヒーのスターバックス、特にアマゾンの第2本社)によるもので、今や右肩上がりの街としてひと・もの・仕事が急増している。そのため、街の成長と共に深刻な住宅不足と交通渋滞に陥っている。

そんなシアトルから西海岸沿い約270km南に消費税が掛からない街ポートランドがあると聞いて買物目的で行ってきた。ところがこの街は全米で最もサスティナブル(持続可能)、環境にやさしく、省エネに努力している注目の地方都市であることに驚かされた。
この街は車社会のアメリカでは珍しく車を極力排除し、エネルギー効率の良い公共交通ライトレールの発達により、コンパクトシティとして歩いて暮らせる町を目指し、徒歩20分を生活圏とした都市開発が行われた。また環境に配慮した建物のリノベーションも盛んで古い建物を活用して、1階が商業で上階にホテルや業務、その上階に居住といったように多用途(ミクストユース)でコンパクトに使われており、暮らしやすい街として賑わい始めている。

この街の特徴は行政・住民主体による「エコディストリクト」というコンセプトの元に建物単位ではなく地区単位で環境システムに取り組んでいる。環境への負荷を低減し、省エネ効果も高く、二酸化炭素排出量、ごみ、水使用、エネルギー使用等の削減につなげている。さらにこの取り組みにより、昼夜を問わず街が賑わうようになり、時間帯ごとのエネルギー利用が平準化されるなど、種々のエネルギー効果が生まれている。

ポートランドにおける街づくりは人口減少・高齢化が進み右肩下がり、かつエネルギー自給率の低い我が国にとって、目指すべき姿ではないだろうか。従来の住居地域、商業地域と用途別に平面的に規模を拡大する都市づくりではなく、小規模で多用途(ミックストユース)の充実した都市構成、まさにコンパクト化の地域づくりが重要だと思う。しかし、この取り組みは一朝一夕にできるものではなく、ポートランドも都市化が進み、環境が悪化した時期があり、これを脱するため地区住民が団結し、時間をかけて今に至っている。
エネルギー問題を考える時、供給側の議論が多いが、需要側のエネルギー削減の議論も大切で個人の意識改革と共に地域ぐるみで考える効率的な取り組みも急務だと考えたい。

(2019年1月末)

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