私はこう思う!

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北の大地に軸足を置いて

秋庭 悦子氏 etsuko akiba
NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長

福島第一原子力発電所の事故後、今後の原子力を担う人材が心配されている。原子力産業の就職説明会でも原子力・エネルギー系の学生の参加数は変わらないが、他産業からの採用ニーズが高い機械系や電気系、化学系などの学生の参加数が少なくなったと聞いている。国や産業界も危機感を持って対策に取り組んでいるが、学生たちに将来展望をいかに描いて見せるかがポイントである。

しかし、人材育成はこのような工学系の学生のみならず、もっと裾野を広げる必要があるのではないだろうか。エネルギー教育の担い手となる教育学部の学生、並びに教員免許取得を目指す学生はもちろんであるが、あらゆる学部・学科の学生に対してもエネルギー教育は必要だと思う。

今年の春から、埼玉県にある私立女子大学で週に1回、「原子の力とエネルギー」という講義を行っている。大学が一般教養科目としてこの授業を考えたのは、事故後、多くの人たちが溢れる情報の渦の中で何が事実なのか分からず、不安に陥ったことからだった。将来、母親となる女子学生たちが暮らしの観点から原子力や放射線について学び、風評に惑わされないようにすることが重要だと考えられたとのこと。消費生活アドバイザーとして27年間、エネルギー問題について理解活動を行ってきた経験が役に立つならとお引き受けした。

事故当時、中学生だった学生たちの脳裏には、テレビの画面で見た原子力発電所の爆発の映像が鮮明に焼き付いており、「原子力は怖い」と言う学生がほとんどである。しかし、日本や世界のエネルギー事情などの知識はほとんどなく、放射線に至っては全く知識がない。教室の中にも放射線はあると言うと全員驚く。そこで、暮らしとエネルギーの関わりからスタートして、放射線の基礎知識や利用を含めて15回の講義を行っているが、「将来の社会とエネルギー」というテーマの期末レポートを見ると、ほとんどの学生が「再生可能エネルギーに期待する」と記載してあった。考えてみると、小学校の時から環境教育はしっかり行われており、「ごみの分別」「省エネ」などは身についているがエネルギー教育が並行されていないため、偏りができたのではないだろうか。それでも、将来、小学校の教師や保母、栄養士として活躍する女子学生たちが原子力について考える時間は貴重である。このような科目が多くの大学に設置されることを願っている。

(2015年10月末)

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