私はこう思う!

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内山 洋司氏 youji uchiyama
筑波大学名誉教授/(一社)日本エレクトロヒートセンター会長

2020年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて水素利用に社会の関心が高まっている。水素は、電気と同様に利用時に汚染物質を放出しないため、都市の環境改善に役立つだけでなく地球温暖化対策にも貢献するエネルギーである。

水素利用の歴史は古く、日本でも1970年代に発生した石油危機後、石油代替燃料として注目され、ニューサンシャイン計画のWE-NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術研究開発)プロジェクトなど数多くの研究開発が実施された。その後、石油価格の暴落等もあり、水素への人々の関心は薄れていった。

水素は電気と同じ二次エネルギーである。まず、水素は何からつくられるのか。理論から考えれば選択肢の数は多いが、実現性と経済性から判断すると天然ガスと電気(再生可能エネルギーや原子力)になる。次に気体である水素をどのように輸送し貯蔵するのか。その方法としては高いエネルギー密度が求められ、高圧化、液体水素、有機ハイドライドなどがある。最後に、水素の用途は何か。ボイラでそのまま燃やしたり、発電して電力系統に入れるのであれば、わざわざ水素にする必要はない。付加価値の高い利用方法として、家庭や業務でのコージェネレーション燃料電池や自動車やジェット機の代替燃料としての利用が考えられる。中でも、最も期待されているのが燃料電池(FC)自動車である。水素ガスを昇圧し700気圧の高圧ボンベに貯蔵すれば、ガソリンのエネルギー密度に近い輸送用燃料となる。燃料電池車の開発では、日本が世界をリードしている。

しかし、世界は日本の優位性を阻止しようとしている。イギリスとフランスが2040年を目標にガソリン車の販売を中止し、電気自動車(EV)で代替すべく開発を始めた。年間2,700万台もの自動車の販売台数がある中国も追随し、今後は電気自動車に切り替えていくという。ガソリン車に比べて部品数が二十分の一しかない電気自動車は、ベンチャー企業も参入しやすいことからアメリカやインドなどでもニュービジネスとして注目されている。都市の環境汚染はどこの国でも深刻な問題であり、都市の新しい交通機関として電気自動車が注目されている。

電池の欠点は重量当たりエネルギー密度の低さである。蓄電池の密度は、高圧水素ボンベの数十分の一である。長距離輸送や暖冷房を賄うと電池の搭載重量が増え、輸送効率と経済性が低下する。そうであれば、安価な蓄電池を主に、エアコン機能や長距離走行時の補助動力源として燃料電池を利用してはどうか。EVFCハイブリッド車にすれば、日本が世界の自動車産業をリードし続けることができる。

(2017年10月末)

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