私はこう思う!

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温泉卵はお好きですか?

木元 教子氏 noriko kimoto
評論家/ジャーナリスト

「いまだに、こんなオバサンがいるんだね」と、我が家に<下宿>している高1男子の孫が言った。話を聞くと、デパートの地下食料品売り場で、福島の農産物の販売をやっていた。美味しそうなサツマイモ。そこに3人のオバサンがやってきて「あ~ら立派なお芋。買おうかな」と手にとった。ところが三人は顔を見合わせ「あらいやだ、このお芋は福島産よ。原発事故の所だわ」と言い、お芋をポイッと箱に戻し、ハンカチで手を拭いて去って行ったという。

彼が学校の帰りに、デパート、それも地下の階に寄るというのは、少々違和感が無きにしも非ずだけれど、お芋をポイしたオバサン達を「こんなオバサン」と言ったことが気になり、「どうして、こんなオバサンなの?」と聞いたら、「だってお芋の横には、ちゃんと立札があって、<原発事故には全く関わっていない福島地域のサツマイモです。放射能汚染のご心配はございません>と書いてあるし、店員さんも丁寧に説明していた。それなのに、福島って聞くと『アラ福島産なの?じゃあ買うのはやめるわ』と言う。政府は問題は無いと発表してるし、新鮮で美味しそうな野菜が並んでいるのに、まるで事故直後のような言い方で、福島NOの感覚なんだ。福島が泣くよ。ほんとだよ」。

彼の頭を撫でたい思いだったけれど、私は精一杯背伸びしないと彼の頭には届かない。頭を撫でるのはやめて、握手をした。だけどデパ地下で、彼は何を買ったのだろう。

何を買ったか聞くと「温泉卵で~す」と嬉しそうな即答だ。彼は無類の<ゆで卵好き>男子。「今日は夜中に試験勉強するから、その時食べようと思って」「茹でてあげるのに」と言うと、「いや、温泉で茹でることに意味があるんですよ。温泉は、茹でるというより温める感じだからいい。で、この温泉卵は<ラジウム玉子>ですよ」。

「えっ、ラジウム?」

「福島の飯坂温泉でね、日本で初めてラジウムが確認された。そこで、この温泉利用のゆで卵を<ラジウム玉子>と呼ぶことにしたんだって」

「フーン」。

「山形小野川温泉もラジウムを含むので<ラジウム玉子>。長崎には<雲仙地獄たまご>という温泉卵があるし、海地獄と呼ぶ別府の温泉には<地獄ゆでたまご>があるよ」。

地獄も、ゆで卵だと好かれる。

放射能泉であるラジウム温泉。日本のあちこちで愛され、役に立っているのだ。

(2015年7月末)

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