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原子力の信頼性回復は現場からの情報発信

内山 洋司氏 youji uchiyama
筑波大学名誉教授/(一社)日本エレクトロヒートセンター会長/JST特任フェロー

今年7月、政府によって公表されたエネルギーミックスは、経済成長1.7%/年を前提にして、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーの最大限の導入、火力発電の効率化等を進めつつ、原子力発電への依存度を可能な限り低減していくことを目標に掲げている。その結果、2030年度の電力需要は9,808億kWhと2013年度の実績値9,666億kWhに比べて僅かに大きな値となり、電源構成は石油火力3%、石炭火力26%、LNG火力27%、原子力20~22%、再生可能エネルギー22~24%と見込むこととなった。これによって、エネルギー自給率は24.3%程度に改善。また、エネルギー起源CO2排出量は、2013年比21.9%減となる。

今回のエネルギーミックスには需給面で2つの大きな問題点がある。まず、経済成長1.7%/年に対して電力需要を0.1%/年以下にすることは現実離れした想定である。電力需要の伸びがない経済成長とはどのような社会を想定すればよいのか。高付加価値製品の製造と輸出で成り立っている日本経済の発展には電力消費が欠かせない。

次に、電力需要の伸びが無ければ既設電源だけで十分に供給できるため、更新以外の新たな設備を建設する必要はなくなる。停止中の原子力発電を再稼働することが企業や国民への経済負担を最も軽減することは言うまでもない。しかし、電力産業の完全自由化に向けて新電力の会社数が急増している。新しい火力発電所やコージェネレーションがベース負荷電源として建設されている。固定価格買取制度により太陽光発電が急増し、賦課金の増大と電力負荷率の悪化を招いている。そのしわ寄せは既存の電気事業者に、発電設備の稼働率低下と、これまで以上の予備力増強を課す形となり、その経済負担は最終的には国民が負うことになる。

こういった問題をいかに解決していくかが今後の課題となる。その解決方法としてローカルなコミュニティに基盤を置く活動に期待したい。市場経済を地域のコミュニティ活動と自然資源やエネルギーに委ねていく。福祉、環境、文化、まちづくり、農業などローカルな活動にヒト・モノ・カネが循環する社会をつくれば、そこに雇用やコミュニティの繋がりが生み出される。コミュニティのエネルギー源に再生可能エネルギーや分散型エネルギーを使うことでエネルギー問題の解決につながる。その活動は既に色々な地域で芽生えつつある。

(2015年10月末)

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