「放射性廃棄物は安全に処分できるのか?」いつも問いかけられるが回答が難しい問いである。昔から「トイレなきマンション」と呼ばれ、今でも原子力の最大の課題となっている。一言で「安全に」と言うが、誰の安全であるかは曖昧になっているように思う。対象として考えられるのは、真っ先に地域住民であろうが、これも時期が曖昧になっており、現在の住民なのか、遠い将来の住民なのかが意識されているようには思えない。
処分の安全を考える際、時期は非常に重要である。高レベル放射性廃棄物の場合、現在は使用済み燃料とガラス固化体が保管されている状態であり、安全な保管とは、放射線を遮る施設に入れ、主に作業者の外部被ばくと放射性物質の漏れを防ぐことが安全の基本である。当然、施設は地震や他の災害に耐えることが求められる。その次は、処分場の建設・運転の時期となる。この時、放射性廃棄物の輸送や定置の際の安全が求められる。廃棄物からの放射線を遮る頑丈な輸送容器に入れられ輸送されると共に、処分場では容器からの入れ替え等が行なわれるが、保管の時と同様、間近にいる作業者の外部被ばくと放射性物質の漏れを防ぐことが求められる。輸送時の作業者の安全が守られるならば、途中経路の住民の安全は当然守られ、処分場に定置されれば、もはや地域住民の外部被ばくの可能性は無いと言ってよい。では、最後の時期、処分場が閉鎖された後の安全は、誰の安全なのか?少なくとも現在の人の被ばくの可能性はほぼ無い。幾重にも施された障壁がすべて突破され、放射性物質が地表に漏れ出るまでに数万年を必要とすると予測されている。しかも、その被ばくの影響は現在の自然界の被ばくの1/100以下になるよう考えられている。一例を挙げると、ガラス固化体を入れるオーバパックと呼ばれる鉄製容器は最低千年の完全閉じ込めが期待されている。この容器は厚さが19cmあり、強度的には戦艦長門の主砲並みである。重さ1トン(乗用車並)の砲弾を30km先まで打ち出す火薬の爆発に耐える強度である。評価上は千年で4cm腐食するとなっているが、粘土で覆われた鉄はそれほど腐食しないことが出雲大社の遺跡(750年前の鉄器の腐食は3mm程度)等から知られている。
さて、私は放射性廃棄物の処分に関する研究を行なっているが、同時に自然科学者たらんとも思っている。原子力と自然科学は別物と思われるかもしれないが、自然から学ぶところは多々ある。有名な例としては、アフリカ赤道直下の国、ガボン共和国のオクロ現象がある。今から20億年も前に天然ウラン鉱床の中で臨界が起こり、それが断続的に100万年ほど続いた現象であり、今もその痕跡が残っている。その他、様々な鉱物を内包する鉱山や遺跡群も貴重な研究対象であり、自然界が与えてくれた例題と考えている。
放射性廃棄物の処分については、未だに一般大衆の理解が得られているという状況ではないが、このような地道な研究が多くの方に知られて、理解が深まることを期待したい。
(2014年2月末)