私はこう思う!

INDEX

石油の一滴は、血の一滴

永岡 文庸氏 fumiyou nagaoka
法政大学経済学部教授

経団連会長の石坂泰三氏が並み居る大企業トップに熱弁を振るっている。「石油の一滴は、血の一滴。日本は石油のために、世界を相手に戦争したんじゃないのか」。

敗戦から10年後の約60年前の話だ。リスクの高い日の丸油田のアラビア石油への出資を渋る財界人を叱咤し、説得しているのだ。説得は功を奏した。実は石坂氏も個人で出資、もし一発でカフジ油田が当たらなければ破産していたとの落ちがついている。

そんな経済人の熱気も今は昔の話。石坂氏ら経済界の主流を占めた「資源派財界人」という言葉はとっくに死語になっている。市場にまかせろ、アメリカに歯向かうな。こんな風潮の中で、日本のエネルギー戦略は空洞化していった。

その中で唯一の戦略が、70年代の石油危機後に始まる「脱石油(中東)」の原子力政策だったはずだ。米国の猛反対を外交交渉で説得した核燃料サイクル策も含め、日本の国益だった。メディアが「原子力村」をどのように検証しても、当時そしてその後の世界情勢の中で、原発推進は、国益が故の決断だった事実は動かない。

反省は必要だ。決断への後悔もいい。だけど糾弾する資格がメディアにあるのか。

「もし現在が過去を裁判するなら、未来が失われるだろう」と喝破したのは、ウィンストン・チャーチルだ。過去の誤りを是正し、恐るべき未来を抑制できることを願う、と続く。

恐るべき未来は、もう現実だ。電気料金の高騰、工場やデータセンターの海外移転、石油・ガスの輸入増による貿易収支の赤字拡大。国際外交の最重要課題の地球温暖化対策へのゼロ回答。原発停止で、弱い日本の外交力の切り札や信用がなくなってしまった。

日本は技術力とそれに伴う経済力がなければ世界に相手にされない。より安全な原発開発と対策と再生エネルギーの技術。危機をバネに日本は世界の先頭を走っている。

さらに、企業の省エネ技術を加えれば恐るべき未来を抑制できる。昨年末の政権交代で、現実的な是正が出来なければ「血の一滴」の悪夢がよみがえる。

(2013 年1 月末)

ページトップへ