私はこう思う!

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電気が止まれば町は滅びる

松田 英三氏 eizo matsuda
パルス経済研究会代表

中山間地や離島にある多くの集落が、消滅の危機に立たされている。生きていくのに欠かせない基礎的なサービスが人口減で維持できなくなり、それが人の離散を加速する悪循環に陥っている。問題が最初に顕在化した公共交通では、路線バスはとうに廃止され、タクシーすら手が届く範囲から消えてしまった。地域の足は途絶え、今やウーバーのようなライドシェア(合法的な白タク?)か自動運転車の台頭を待つだけになった。

電気は現在、既存の大手電力会社が自社の営業区域内に供給義務を負っている。どんな山奥であろうと、電気の購入を希望する人がいれば、コストを度外視して電線を延ばしている。このコストは地域独占の下、結果として都市部の利益で埋める格好になった。今春の電力自由化で地域独占はなくなったが、大手電力には暫定的に供給義務が残された。数年後には、新旧電力会社を対等の条件で競争させるため、発送電の分離が予定されている。その段階に至れば、大手電力にだけ供給義務を課す理由はなくなる。

不採算地域が拡大する中で、集落の維持と電力自由化をどう両立させるのか。一つの手段は、電気通信で2002年に導入されたユニバーサル・サービス基金だろう。電話事業のうち加入電話、公衆電話と110番など緊急通信を「暮らしに必須のサービス」とし、東西NTTに全国どこででも提供する義務を負わせる。一方、両社がこのサービスを展開することに伴って発生する赤字の一部は、すべての電話会社に分担させる、という仕組みだ。具体的な金額は中立機関が算定し、現在は電話会社が客に与える電話番号一つについて月3円を徴収している。電気事業にも応用できる制度だが、「電力大手憎し」のイデオロギーに凝り固まった団体とメディアは、一見、大手寄りに映るこの制度に反対するだろう。それらの抵抗を押し切って、撤退に歯止めをかける制度を導入できるか。電気事業で「不採算地域からの撤退」まで完全自由化すれば、多くの地域が間違いなく崩壊する。

(2016年10月末)

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