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自然は傷つくと回復しない

中村 政雄氏 masao nakamura
ジャーナリスト

英国は自然の美しい国だが、どこを訪れても森林が薄い。うっそうとしていない。ロンドンの郊外にある世界一の植物園キューガーデンで、環境学者にその理由を尋ねたらこう答えた。

「英国にはローマ時代から大勢の人が住み木を使った。燃料は木材だった。産業革命が始まると鉄鉱石の還元に木炭が大量に使われ、このままだと英国の樹木は1本残らず消えそうだった。木炭に代るものはないかとさがしたら石炭が見つかった。樹木の大量消費は食い止められたが、その後遺症で英国の森林はいまでも密度が薄い」

自然は傷をつけると回復しない。バイオマスは再生可能エネルギーではない。

日本の国土は緑豊かな森林に覆われているが、それはごく近年のことだ。全国いたるところに荒廃した山野があった。原因は、建築材料、家具の材料、燃料に昔から木を使ってきたからである。「森林の劣化は古代国家の成立とともに始まった」と太田猛彦東大名誉教授は次のように書いている。「農耕社会の成熟期には里山の森はほとんどなくなるほどだった。森林の荒廃により毎年、全国各地で土砂災害や洪水の氾濫が頻発していた。7世紀の飛鳥・奈良地方で森林の衰退が始まり、17世紀半ば以降はげ山は全国に広がった」

江戸時代はリサイクルが盛んで自然循環型社会だったとして、江戸時代を礼賛する人が多い。ほとんどの人がつましい暮らしをしていたようだ。それでも森林は荒廃した。なぜか。3,000万人しかいなかったが、それでも1人当たりの自然が少なかったからだ。

英国は石炭を使うことで森林の減少を食い止めたが、マイナスも出た。大気汚染だ。第二次大戦後のことだが、ロンドンでひどいスモッグのため一週間で4,000人もの死者が出た。北海油田からのガスと原子力発電で石炭の消費を抑えたためスモッグはなくなり、今は冬にロンドンを訪れても青空がみえるようになった。しかし北海油田はほとんど枯渇状態で、代わりのエネルギーに原子力発電の大規模導入が検討されている。

(2013 年3 月末)

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