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原子力の復権

中村 浩美氏 hiromi nakamura
科学ジャーナリスト・航空評論家

2010年以来となる、国の中長期的なエネルギー政策の新しい指針『エネルギー基本計画』の原案は、昨年12月に経済産業省の有識者会議でまとめられた。原子力発電を「エネルギーの基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、民主党政権が掲げた「脱原発」路線からの転換を明確にしたのが特徴だ。新年早々にも閣議決定の予定だったが、政府はこれを先送りし、執筆時点では最終策定作業中だ。先送りの理由は二点あった。ひとつは東京都知事選挙で、「脱原発」を主張する候補者が単一的な政策争点化を狙ったことに対する警戒感であり、もう一点は計画原案への自民党内の慎重意見だ。

都知事選の方は、自民・公明が支持した舛添候補が大勝し一応落着したが、国の政策であるエネルギーを争点とするのがもともと不適切だと思うし、代替解決策を具体的に示すことなく東京の空の下で「脱原発」を叫ぶ姿勢には、電力供給の多くを新潟、福島両県の原子力発電に依存してきた事実に対する、敬意も謝意も感じられなかった。ことは自民党内の異論の方が重大だ。今や原子力推進の一枚岩ではなくなっているのだ。再生可能エネルギーの推進も鮮明にすることで党内バランスを取って行くのだろうが、今後のエネルギー政策の実行に危惧を抱かせる。安倍首相には強いリーダーシップを発揮して、多様性のある電源構成を確立し、安定供給における原子力の効用を明確にしてほしいと思う。

先日、澤昭裕先生の講演を聞いて、原子力が日本にとって特別に必要だとする論理の構築と、推進体制の再構築が急務と認識した。原子力の位置を確固としたものにするためには、国民的な問題意識の共有と、原子力効果の共通認識が必要だ。そのための有力なテーマが地球温暖化(気候変動)防止だと思う。3.11以降、緊急避難的に火力発電のフル稼働で電力供給を続けているが、年3.6兆円もの追加燃料費が経済を圧迫しているし、温室効果ガスの放出も急増している。もう一度温暖化防止を最重要課題とすることで、原子力の復権を目指したい。

(2014年2月14日)

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