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将来世代の選択肢

鳥井 弘之氏 hiroyuki torii
NPO法人テクノ未来塾理事長

原子力反対とか脱原発を主張される方々は、原子力の何に対して反対を表明されているのだろう。核反応を人間が利用することか。人工的な核分裂反応に対してか。現在の原子炉のように連鎖反応を起こさせることか。はたまた、現状の軽水炉を運転することに対してだろうか。それとも電力会社に代表される原子力利用体制に対してか。

生命が生まれ育ち生きていくのにエネルギーは不可欠である。モノを動かしたり、加工したり、温度を調節するにもエネルギーが必要である。動物であれ、人間であれ、社会であれ、エネルギーがなければ存在し得ない。それほど重要なエネルギーだが、生物の歴史を通して、生物は自らエネルギーを生み出す手段を持っていなかった。深海の生物を除けば、エネルギーを太陽の恵みに依存してきた。

人間が人工的に核反応を起こさせることに成功し、初めてエネルギーを作り出せるようになった。技術としての核反応を手にすることで、人類はエネルギーに関する自由度を獲得したと言えるだろう。核融合の技術は未だエネルギーを生んでいないから、核反応を核分裂と言い換えるのが妥当だろう。獲得した核分裂技術を放棄するのは余りにも残念だ。

現在の軽水炉という技術体系は、核分裂を利用する上での必然ではない。過去の技術開発における様々な選択の帰結に過ぎない。違った形の体系も大いに考えられるはずだ。こんなことが実現するか自信はないが、中性子が充満する空間に極微量の核燃料を連続的に供給するような形なら連鎖反応を利用しない炉になるであろう。

溶融塩に燃料を溶かして、液体のまま反応させる炉の提案もある。炉の外側に中性子反射板を設置することで臨界を制御する技術も魅力的である。今後の原子力を考えるには、軽水炉を進化させるのも重要だが、新たな技術体系を構築して将来の世代の選択肢を広げる努力が求められる。その上で社会と親和性の高い技術を構築すべきである。

(2013 年3 月末)

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