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植物検疫と放射線 今、照射に期待!

市川まりこ氏 mariko ichikawa
食のコミュニケーション円卓会議代表/消費生活コンサルタント

私が代表を務める食のコミュニケーション円卓会議は、2010年から食品照射をテーマに公開講座「しゃべり場」を開催している。10回目となった今年(2019年)は、「植物検疫と放射線」というタイトルで開催した。

http://food-entaku.org/koukaikoza.html#spb-column-1

放射線が、食品の衛生や保存に役立つことはご存知の方も多い。海外では、植物検疫にも放射線が利用されている。植物検疫なんて、消費者には関係なさそうと思われるかもしれないが、実はそうでもない。

植物検疫では、外国から輸入した植物に付いた(寄生)病害虫が拡散することで起こる被害から国内の植物を守るため、輸入時に検査や消毒(殺虫)、廃棄処分などを行う。
日本への輸入時に利用できる消毒処理は、①薬剤によるくん蒸、②低温処理、③温熱(温湯浸漬、蒸熱)処理の3つ。薬剤によるくん蒸は、臭化メチルが使われてきたが、臭化メチルはオゾン層を破壊するという理由からその使用が国際的にほぼ禁止。②低温処理と③温熱処理では、野菜や果物の外観、食感、味、香りなどの品質が劣化する懸念がある。そこで、諸外国では放射線照射処理も利用されている。

放射線照射では、温度がほとんど上がらないため生鮮食品や冷凍食品の処理が可能で、色や香り、栄養素も高品質に保たれる。また、薬剤の使用による残留毒性や環境汚染の問題がないというメリットもある。ただ、食品によって向き不向きがあり、どんな食品にでも使えるわけではない。しかし、私たちがこれまで行ってきた体験実験の結果から考えると、輸入熱帯果実などは、現状よりも新鮮でおいしく食べられる可能性が高いと考えている。オーストラリアやニュージーランド、米国などではマンゴーやパパイヤなどの植物検疫に放射線照射が利用されており、その規模は年々急拡大している。

このように、放射線照射による病害虫の殺虫・不妊化処理は、品質劣化が少なく環境に優しい等のメリットが大きいため、薬剤くん蒸処理や低温・温熱処理の代替法として世界で実用化が急拡大している。日本でも放射線照射した食品(照射食品)の安全性評価を行い、植物検疫への放射線利用をしっかりと進めてほしいと願っている。

(2019年10月)

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